艶姿







咲き誇る華のように、桜庭さんは綺麗だった。




潜入捜査がどう、などという話はいつも僕は蚊帳の外だ。自分から進んで話に参加しない、というのもある。
考えるのは苦手だから、ただ僕は近藤さんの決定に従うだけ。
皆の意見がまとまり、桜庭さんが舞妓に扮すると決まった時も、それを止める斎藤さんの意見にも、僕は正直どちらでもいいのではないか、と思っていた。
その方がより効率良く情報収集出来るのならそうすればいいし、心配なら止めればいい。山崎さん一人で充分な気もする。
それよりも昼間遊んだ子猫が可愛いかったので、僕は明日もその子猫に会えればいいと考えていたくらいだった。
話の最中、桜庭さんがしきりにこちらを見るので僕は笑って手を振ってみた。
その途端彼女は立ち上がり、山崎さんと一緒に部屋を出たのだった。
その行動の理由は多分決定事項に従う為のもので、僕のせいではないと思うのだけれど・・・、何故彼女は怒ったような顔をしたのだろう?
考えたのはほんの数刻。
今度は襖から覗く綺麗な月の明かりに見惚れた。末席に居るのは何をしても目立たなくて都合がいいからだ。
うとうととしかけた時だった。その場に居た全員のはっとした気配と、息を呑み、感嘆の溜息を吐く音に目を覚ました。僕が同じ事をしたのは皆よりずっと遅れてだった。けれど、本当に綺麗だと思った。
舞妓姿に着替えて姿を現した桜庭さんに、その場にいた全員が見惚れていた。
「これなら文句ねぇな。いっそ奴等色仕掛けで落として口割らせたらどうだ?」
永倉さんが言う。
「馬鹿を言うものじゃない、彼女に何かあったらどうするつもりだ?」
それに眉を顰める山南さん。
「・・・綺麗だよ、桜庭君」
近藤さんが一言そう言うと、皆が頷いた。
「ありがとうございます・・・」
頬を紅く染め桜庭さんは小さな声で、けれど嬉しそうに微笑んだ。
ああ、女性はこんな言葉を喜ぶんだ。
そんな言葉を言える近藤さんはすごいなぁ、と思う。
その時また桜庭さんは僕を見た。けれど、居た堪れなくなり、僕は立ち上がるとその部屋から抜け出した。
夜の澄んだ空気を吸って吐き出す。縁側に腰を下ろして夜空を見上げた。
しばらくそうしていると、背後で障子が開いて僕は振り返った。
「桜庭さん」
どうしたんですか?と聞くと、彼女はきっと顔を上げて僕を見つめてきた。
「沖田さんはどう思っているのですか?」
何か大切な事を話そうとしているような彼女の様子に、僕は首を傾げた。
「似合っていると思いますよ?」
「そ、そうじゃなくて・・・」
彼女は頬を染めると、困ったように視線を泳がせた。
やはり僕は近藤さんのように彼女を喜ばせる言葉は言えないみたいだ。
「私が、こんな格好をして潜入捜査する事をです!」
「・・・皆がいいと言うのだから、いいのでしょう」
「私は、沖田さんの意見を聞いているんです。どうして他人事のような顔をしているのですか?」
参ったなぁ、と僕は呟いた。どうやら彼女にはお見通しだったらしい。
「では、言います。貴女に遣り遂げる覚悟があるのなら賛成です。正体を知られたら命はないですからね。躊躇っているのなら止めなさい。正直、貴女のその姿を見たかった、という人達もいるようですから」
桜庭さんは真剣な目で僕の話を聞いて、ほう、と息を吐き出した。
「やはり、そう思いますか?必要なら、覚悟は決めます。けれど、本当に私じゃなくてはいけないのか、と思うんです。私は監察じゃありません。上手く出来るのか、役に立てるのか、それだけが心配なんです。それなのに皆からかうばかりで・・・」
ああ、彼女は本当に真剣なんだ。
気付き、僕は目が覚めるようだった。
一緒に考えてあげるべきだったと後悔し、僕は俯いた。
「からかってなどはいませんよ。多分、本当に必要なんです。女性にしか出来ない仕事ですから・・・。山崎さんの言う通りにしていれば心配ありませんよ」
「本当に、そう思っていますか?」
不意に彼女が僕に近寄り、顔を覗き込んできた。
ふわりと白粉の匂いが鼻をくすぐり、僕は急に先程の居た堪れなさを思い出した。
「・・・はい、きっと、山崎さん一人では困難なのでしょう・・・。だから近藤さんもあんな真剣に・・・」
ふと、視界に彼女の手が入ってきた。
白く、小さな手だった。
この手に僕は竹刀を打ち込んでしまったのだ。何故か急に後ろめたい感情が押し寄せてきた。
居た堪れないのはきっと、急に桜庭さんが女性に見えたからなのだと、その時気が付いた。
知っていた筈なのに何故こんな風に思ってしまうのか分からない。格好が変わっただけなのに。
「沖田さん、どうしたのですか?」
心配そうに聞いてくる彼女の顔をまともに見ることが出来ないまま、僕は口を開いた。
「何故、僕に聞くのですか?実は僕は頭を使う分野には向いてないんです。土方さんに聞く方がきっと貴女の為になる」
「―――沖田さんに聞きたかったんです」
「何故・・・」
僕は顔を上げてはっとした。
彼女があまりに真剣に僕を見るので言葉を発する事が出来なかった。
こんな時に何を言えばいいのか、何を言えば彼女は近藤さんに見せたような笑顔をくれるのか。
「私には、無理だと思いますか?正直に答えて下さい」
「・・・いいえ・・・。貴女ならば遣り遂げる事が出来ると思います。ただ、貴女はたまに無茶をするから心配です。まあ、僕達が潜んでいるから怪我はさせませんけど」
言って、僕は頭を掻いた。
正直にと言われたから正直に話した。上手い言葉などどうしたって思い浮かばない。
けれど、彼女は微笑った。
花開くように、ゆっくりと。
「―――私、この任務受けます」
「桜庭さん・・・」
「ありがとうございます、沖田さん」
お礼を言われるような事は言ってないと思う。
けれど、その時の桜庭さんは本当に嬉しそうに見えた。胸の奥が温かくなる気がした。
「覚悟は今決めました。沖田さんが居て下さるから安心です」
「無茶はしない約束ですよ」
頷いた彼女が綺麗で、あまりに綺麗で・・・

僕はこの人を守ろうと誓った。














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しかし、両思いなのにもどかしい二人ばかり書いちゃうな・・・。
まんがのパクリです〜。本編で近藤さんと両思いだから、別の人で!と思いましてv
でもこの鈴花ちゃんには潜入捜査きっちり遣り遂げて欲しいです。その方がカッコいいですよね〜??
いや、この話斎藤でやろうか土方でやろうか、はてまた・・・、と悩み、結局沖田スキーな自分の欲望に負けました。
あ、でも斎藤バージョンと土方バージョンもやろうかな!?え?やらなくていい?

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