異国の贈り物
「めりーくりすます!」
そう言って私の部屋に飛び込んで来たのは梅さんこと、才谷梅太郎さんだった。
「・・・梅さん〜。何ですか、また訳分からない事言って」
そろそろ寝ようと布団に入った直後だった。以前にも一度夜這いをかけられた事があるので、私は特に驚かず、けれど気は抜かないで梅さんを見た。
「つれない返事じゃのう。そこがまたいいんじゃが」
梅さんはにこにこと笑っている。
この人はいつもこうして優しい目で私を見る。私を好きなのだと、全身で表現してくれる。
だから、何を言っても許される様な錯覚をしてしまう。
「女性の部屋に夜中に来るのは失礼ですよ!優しくして欲しかったら昼間ちゃんと玄関から来て下さい」
ぷい、と顔を背けると、彼は少し俯いて頭を掻いた。
「・・・すまん、どうしても今日、今夜渡したい物があったきに・・・」
そんな梅さんを見ると自分が悪者になった気がしてしまう。
「・・・謝ってくれればいいです。ちょっと、外で待ってて下さい」
私はそう言って彼を部屋から追い出すと、慌てて着替えた。
「お待たせしました。・・・何かあったのですか?」
障子を開けて再び彼を部屋の中へと入れ、私は時間の事も考えて彼から少し離れた所に背筋を伸ばして座った。
「・・・ああ、いいのう。やっぱりわしゃ、おまんが好きじゃ」
目を細めて私を見る梅さんに、動揺を覚える。
「な、何ですか?どうしていきなりそんな事・・・それに、さっきのおまじないは何ですか?」
「めりーくりすます、じゃ。今日は異国の神様が生まれた日なんじゃ」
「神様?神様に誕生日があるんですか?」
梅さんはにっこり笑って頷いた。
「異国ではこの日は大切な人や子供達に贈り物をして、ご馳走を食べて祝うそうじゃよ」
「へえ・・・」
私には想像も出来なかった。日本のお正月のようなものだろうか?
「今日はわしがおまんのさんた・くろーすになっちゃる」
「さん・・・?」
更に首を傾げる私に、梅さんは軽く片目を瞑って見せた。
「昔貧しい人を助けた人の事らしいが、今ではくりすますに子供に贈り物を届ける人をさんた・くろーす言うがよ。まっこと、面白いぜよ、海の向こうは」
「本当ですね、何だか、素敵」
そんな人が年に一度贈り物を持って自分の前に現れる事を思い描いたら、何だか楽しくなった。
こうして目を輝かせて異国の話をする梅さんは、しかし、誰よりもこの日本の国を愛している事を私は知っている。
「何時か、一緒に行こうな」
そう言う梅さんに、私は自然に笑みを返し、頷いていた。
それが無意識だったので、不意に梅さんが呟いた言葉に私は驚いた。
「――――ありがとう」
「え・・・?」
「必ず、連れてく」
梅さんは言って、私の左手を取った。その薬指に何かを嵌めている。
それは銀色をした、小さな輪だった。
「・・・何ですか・・・?鉄・・・?」
それは綺麗に磨かれていて、模様も彫ってある物だった。私はそれを目の前に翳して見惚れた。
「いや、これは銀でできちゅう。おまんがわしの物になったっちゅー証ぜよ」
「―――ええっ!?・・・これも異国のですか!?」
「まりっじりんぐ、言うそうじゃ。日本語で結婚指輪、じゃな」
「けけけ、結婚〜!?」
私は驚いて自分の指に嵌められたそれを再び見た。
「わしがおまんを必ず幸せにするっちゅー、誓いでもある」
梅さんの言葉に息を呑み、真剣な表情の彼に視線を移す。
「――――梅さん・・・」
熱いものが胸の内に込み上げてきて、私は戸惑った。
けれど、嬉しかった。
正直、異国の事はよく分からない。怖くもある。けれど、彼と一緒ならどんな所でも行ってみたいと思った。
新撰組にいる自分にそんな未来があるのか分からないけれど、それは考えるだけで充分に幸せな未来だった。
「・・・ありがとうございます。きっと・・・、約束ですよ」
微笑んだ私を、梅さんはそっと抱き締めてくれた。
外には小さな雪の結晶が空から舞い降りていた。
大切な宝物が、胸に生まれた夜―――
終
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読めば分かりますが、嘘っぱち土佐弁(汗)内容も時代考証自信なし(だめだめ)
えと、こんな物欲しいと思われる方はいないと思いますが、フリーとさせて頂きます・・・。
報告は特に必要ございませんが、匿名でも「持ち帰りました!」とのお言葉がありますと大変救われます(笑)