ながい愛






この気持ちを君に。
他には何もあげられないから、この気持ちだけを。
欠片でもいいから、君の中に残って欲しい。





恋じゃなかった。
気付いた時、それは既に恋じゃなくなっていた。
今まで好きなった女性達に感じたのとは全く違う感情を、俺は彼女に持っていた。

「―――奥様が・・・、いるのですか・・・?」
目を見開き俺を見る彼女に、自惚れた。同時に罪悪感が俺を襲う。
返事を躊躇い、けれど嘘を吐けずに俺は頷いた。
「うん」
桜庭君はこの時まで俺などその眼中になかったと思う。それは、恋の相手として。
その相手に候補としてでも上がる事が出来たのだろうか。
それは喜ぶべきなのか。
嬉しいと思っても、どうする事も出来ないのは自分が良く知っている。
「―――そう・・・、ですか・・・」
呟いた彼女の声が嫌に部屋に響いた。
その後俺達は互いに言葉も交わせず、ただ見つめ合っていた。






彼女の前だけでは、俺は臆病になる。
他の女に囁いたように言うだけでいい。
「好きだ」と。
幾らでも言ってきた。
けれど、俺は初めて知った。
本当の事を言葉にするのはこんなにも重いということを。
言えないのはこんなにも苦しいという事を。
拒絶を想像するだけで身体が震える。彼女の全てを知りたいけれど、怖い。
考えなくてはいけない事は山ほどあるというのに、彼女の存在が俺を占める。
見動きすら出来ない程、息をするのも苦しい程。
酔えないと、彼女をこの腕に抱き締める事等出来ない。
そんな自分が情けなくて仕方がなかったが、こうしないと動き出せなかった。
そう、思い込んでしまった。


夜更けに、俺は桜庭君の部屋の襖を開けた。
暗闇の中、浮き上がるように見える白い布団がもぞりと動いた。
「―――誰・・・?」
「俺」
「・・・近藤さん・・・?」
彼女が布団から出て灯りを点けるのを、俺はつっ立ったまま黙って眺めていた。
「どうしたんですか?・・・酔ってるんですか・・・?」
「うん。ごめんね、ちょっと・・・、桜庭君に会いたくなって」
「何かあったのですか?」

―――うん、そう。もうずっと君に焦がれて屍になりそうなんだ。
だから、君の情けを下さい。俺を、助けて―――

俺は無言のまま彼女に近付くと、徐にその身体を抱き締めた。
「――――近藤さん!?」
片手だけでその動きは容易く封じる事が出来る。
「――――止めて下さい・・・!」
その言葉に余計に煽られる。
このまま彼女を自分の物にしてしまうのは簡単な事だった。
俯いた彼女の頬を右手でゆっくりと自分に向ける。
僅かに濡れた瞳を見つめ、俺はその唇にゆっくりと口付けた。
柔らかく、甘く、そして震える唇に舌を這わせ、固く結んだ唇を割りその中に差し入れた。
逃げる彼女の舌を追いかけ、絡める。
甘いその息が上がり、乱れ始めた。
「・・・こん、なの・・・、いやです・・・」
不意に顔を背けると軽く俺の胸を押し返した彼女の、今度は耳朶に口付ける。
「近藤さん、嫌です」
「うん。・・・震えてるね」
夜着の袷に手を差し入れて、その小さな膨らみに触れると、腕の中で小さな身体がぴくりと動いた。
まだ女にもなり切れていない、幼さの残る身体だった。
夢中で貪るには清らか過ぎる。その手触りに、ざわり、と胸の中が騒いだ。
「――――ごめん」
その時、俺は我に返った。
熱いものが胸の奥から込み上げてきて、俺はそっと手を外すと彼女の身体を抱き締めた。
「・・・近藤さん・・・」
自分の今までの想い、考えが全て浅はかで情けないものだったと、唐突に思い知ってしまった。
「こんなのは違う、違うんだ。何の意味もない」
すごく、すごく欲しいのは本当なのに。
彼女が新撰組を支えている者の一人だという事を、俺は知っている筈だ。その尊い命を懸けて。
守るべき存在ではないのか?この扱いは彼女をただの女として見ているだけの行為でしかない。
いっそ、ただの、普通の女であってくれれば――――

酔った筈の頭が妙に冴え、目が覚めた気分だった。
けれど、歩き出したと思った足が再び止まってしまったのも事実。
行き場のない感情が身体の中で荒れ狂う。痺れるような恋情。

この想いの果てに壊れるのは、自分か、彼女か。

愛してるという事実だけが真実。

刹那の愛情など無意味なのだ。


「・・・近藤さん・・・」
桜庭君の声が耳元で聞こえ、俺ははっと顔を上げた。
「―――私は、貴方を愛しません」
それは、全てを失くすのに等しい言葉だった。
けれど、戒めの言葉にもなる。
「―――――うん」
泣き出したいような、ほっとしたような、自分でも良く分からない気分のまま、俺は静かに頷いた。
「――――でも、新撰組がある限り、私は貴方の傍に居ます」
「―――――」
「近藤さんの中に新撰組がある限り、私は貴方と共に生きます」
―――私にか出来ない事です。
震えるその声に、彼女の奥底の叫びまで聞こえた聞こえた気がした。
涙が、一筋自分の頬を伝ったのが分かった。
抱き合うよりもそれは深く、欲しいと願った愛に良く似ていた。

心を落す事なく生きていこうと、密かに誓った。腕の中の存在に。
こんな時代じゃなかったら、ただの男と女であったなら愛し合えた。
けれど、こうしてこの形で出会ったからこその愛の形もあるのだろう。

君の気持ちはこの胸に永遠に残そう。

だから、俺の気持ちもどうか残って。

欲望でも本能でもない、きれいな気持ちを。

この形だからこそ残せる、ながい愛を



君に―――――――



















*****************************

・・・こんなんで・・・。こんなんで・・・ごめんなちゃい・・・・。
すごい難しかった!近鈴!!どうしても不りんに思えて仕方ないのだ〜。
恋華は綺麗なイメージがどうしても私の中にあって、銀魂の様に滅茶苦茶にできないというか、下品に出来ないというか・・・。暴走させれないというか〜っ!
とにかくこんなんですが、稀に見ない生みの苦しみを味わった(笑)ブツを恵様に謹んで捧げさせて頂きます!
キリリクありがとうございました!!







戻る