幸せの予感
その日、部屋から出た私は寒さに身を震わせた。
「鈴花ちゃん」
振り向くと、顔に冷たいものが当たった。雪玉だった。
「きゃっ!ひどいですよ、山崎さん!」
当たっても痛くないように柔らかく握られていたが、私はその冷たさに驚いて声を上げた。
「ふふ、怠慢ね。この位避けなきゃ駄目よ」
山崎さんの笑顔にほっとした私は妻戸を開けた。
「―――わぁ、すごく降ったんですね!」
「綺麗よ、真っ白で。鈴花ちゃんみたい」
「白くないですよ・・・。夏の日焼けがまだ残ってますもの」
私は頬を膨らませると、自分の袖をめくって腕を見せた。
山崎さんはぎょっとしたように私の腕を見ると、慌てて袖を引っ張った。
「女の子が簡単に肌を男に見せるものじゃないわ!」
「―――つい・・・。ごめんなさい」
何故謝らなければならないのだろうと私は考えた。
元はと言えば男に見えない山崎さんが悪いと思う。
「私だってこう見えて、何時狼になるか分かんないんだからね!」
「え?」
“狼”という表現が可笑しくて、私は山崎さんを見て笑った。
けれど、冗談だと思ったのにその目は笑っていなかった。
「鈴花ちゃんはね、綺麗な女の子なのよ。穢れてない、真っ白な心の女の子」
思わず赤面する私の顔を手拭いで拭きながら、山崎さんはたまに見せる男の顔で私を覗き込んだ。
途端に私の心臓は音を立て始める。
「女の子はね、自分を大切にしなきゃだめよ。・・・私が、守ってあげるけどね」
うっとりとするほど綺麗な目で見つめられて、私はくらくらとした。
甘い香りと、倒錯的な誘惑と、うるさいほどの自分の鼓動。
自覚するのにそんなに時間は掛からなかった。
私はこの綺麗な人に惹かれているのだ。
「鈴花ちゃんの白無垢姿、見たいなぁ」
突然の彼の言葉に耳を疑い、私は顔を上げた。
「・・・山崎さん・・・、それって・・・」
「勿論、隣に居るのは私よ」
軽く片目を瞑ってみせる彼に、私は満面の笑顔で答えた。
「はい・・・!」
明るく答えたけれど、その時の私はまさか山崎さんの白無垢姿も見る日が来るとは夢にも思っていなかった。
終
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WEB拍手の書き足し〜。
ずるい更新でごめんなさい・・・。
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