雪に輝く華



北方のこの地が、こんなにも雪深く寒さ厳しいとは・・・
遙かに自分の想像を超えた自然の力。
そう思えば思うほど、いかに自分はまだ小さい人間で学ぶべきことが多いのか。
世の中を分かりきっているようなつもりでいたことが、滑稽だった。

蝦夷に渡って初めて迎えた冬。
もっと激しくなるかと思えた戦況も、寒さと降りしきる雪のおかげかそれほど激
しくはなかった。
雪に慣れていない西軍の兵士たちは、歩くこともおぼつかず、進軍してくること
ができなかった。
だからこそ、自分たちは体制を立て直すこともできた。
京都から走り続けてきた自分にとって、少しばかりの休息言っても過言ではない。
連戦を繰り返してきた、隊士にも良い休息となっていることは確かなことである。
だが、この雪が解けたら―――
きっと、今まで以上に過酷な戦いが待っているのだろう。

俺はこの地で、死に場所を探せるのだろうか?

窓を開け、白く輝く景色を見ながらふとそんなことを考える。
共に戦ってきた仲間が倒れていく姿を見ながら剣を振るうことに、少し疲れたの
かも知れない。
まさか、こんな事を考えるなんて少し前の自分からは想像できなかったから。
弱気になっているのか?
いや、まだ俺は戦える。
そして、勝つ・・・勝たなくてはいけないのだ。
それが、戦い散っていった仲間への。
近藤さんへの最高の供養になるはずだから。

“トントン”
「土方さん、お茶をお持ちしました」
「入れ」
ドアが開き風が部屋を流れていく。
こんな風に建物の中ばかりに篭っていると、一瞬の風の流れでも心地よく感じる。
「また、雪をご覧になっていてのですか?」
「あぁ・・・」
「久しぶりに、句でも詠んでみたら如何ですか?」
「句・・・か」
「えぇ、聞いてみたいです」
「・・・」
静かに横に並びそれ以上は何も言わず、一緒に雪を見る。
コイツがいるだけで、こんなにも温かく穏やかになるのが不思議だ。
だが、一歩戦いの場に出ると背中を任せても安心できる、唯一無二の存在。
コイツのおかげで、今までもこれからも俺らしく生きていけるのだろう。
互いに想いは同じ。
だが、告げることも聞くこともしない。
俺も、コイツも今は自分のことよりもすべきことがあると思っているから。
一時はコイツにはこんな危険な場所ではなく、もっと他の場所で幸せに暮らして
ほしいと願った時もあった。

“お前はもういい。今ならまだ、隠れて逃げることもできる。照姫様の元へ行け”
“いやです。私も共に最後まで戦います”
“俺は、お前に生きていてほしいと思う。その願いを聞いてはくれないのか?”
“私は、あなたと共に生きたい・・・その願いは、かなえてくれないのですか?”
“・・・”
“・・・”

その強い意志と信念に負けた。
―――違う。
俺がコイツと少しでも長い時間、共に戦いたいと本当は思っていたのだから。
そばにいてほしいと、願っていたから。
生きてほしいと願う自分と、共に戦ってほしいと思う自分。
相対する想いを抱えながら、コイツを試した俺。
ずるい男だと言われても何も言い返せない。本当のことだから。
そして、こいつにどれだけ甘えているのだろうか。
コイツに出会ってから、俺がどれだけ弱く小さい人間か思い知った。
だが、コイツはそんな俺を見放さず、ココまでついてきてくれた。
だからもう俺は迷わない。
最後まで戦い抜いて、コイツと共に生きる。生き抜いてみせる。
そして、この戦いが終わったとき。
胸の中に秘めた想いを、全てコイツに告げよう。
近藤さんや、皆の意思を引き次ぎ、次の時代を生きていきたい。

さっきまで死に場所が・・・なんて、少しでも思っていた自分が恥ずかしい。
「ふっ・・・」
「なんですか?良い句でも思いついたのですか?」
「いや、そうではない」
「では、何故笑ったんですか?」
「自分は小さい人間・・・・だな、と」
「そうですか?私には、そう思いませんけど」
「いや・・・俺は小さい。お前が教えてくれた」
「わ、私がですか?」
「あぁ」
「え?え?」
「気にするな。雪を見て少しばかり、感傷に浸っていただけだ・・・少しな」
「はぁ・・・きゃっ」
俺の言葉に考え込んだお前を、自分の方に引き寄せる。
予想していなかった出来事に、お前は自分の体を支えることができず、全てを俺
の体に預ける事になった。
「な、なんですか、土方さん」
「少し寒くなったからな・・・この方が温かい」
「あの、ですね・・・」
「何も言うな。しばらくこのままで」
「・・・」
俺の腕の中にすっぽりと納まってしまう小さな体。
愛しさは募っていく。
抱きしめる腕に少しだけ力を込め、柔らかな髪に顔を埋めた。
「土方さん、変ですよ」
「・・・そうか?」
「他の隊士が見たら、絶対に驚きます」
「なら、見せてみるか?」
「う・・・」
黙ってしまったお前が、可愛いと言ったらますます頬を赤らめるだろうか?
「なぁ、桜庭」
「・・・なんですか?」
「色々と世話になったな・・・」
「な、何言い出すんですか?」
「新年だからな・・・挨拶だ」
「あ、挨拶・・・・ですか?そうでした、年が明けたんでしたね。なんだかバタ
バタしていて忘れてました」
「全く・・・お前らしいな。」
「どんな意味ですか!?」
「くくっ・・そのままの意味だ」
頬を膨らまし、恨めしそうに見上げるお前はあの頃と何も変わらない・・・
初めて出会ったあの頃に。
「ったくぅ・・・そんなところは変わらないんだから」
「早々、性格が変わってたまるか。お前こそ、何も変わっちゃいねえ・・・けどな」
「ですね・・・って、私だって変わりました」
「・・・そうだな。こうやって助けられているんだからな、俺が」
「私は、そんな・・・」
「お前がいるから、俺はこれからも俺らしく戦える」
「・・・土方さん」
「これからも、よろしく頼む」
俺の言葉に、無言でうなずき強く抱きしめ返したお前。
口付けを交わすわけでも、肌を合わせるわけでもない。
抱きしめ体温を感じ、そばにいることを確かめるだけ。
それでも、俺を癒しより強くさせてくれるお前。
これからもっと厳しい現実が、俺たちを待っているはず。
だが、二人なら必ず乗り越えていけるはずだ・・・今までのように。
だからこれからも俺を隣で支えてほしい。
俺が俺らしくあるために・・・

風が新しく降り積もった雪を運び、輝きながら流れていく。
雪深く、広大なこの土地でしかきっと見ることのできないであろう、幻想的な風
景に目を奪われる。
あいつらと共にこの風景を見ていたら・・・
あるものは感嘆の声を静かに上げ、あるものは観賞に浸ることもなくはしゃぎま
わっていることだろう。
「きれい・・・きっと、京では見れなかったでしょうね。・・・みんなにも見せ
たかった」
腕の中から聞こえた言葉に、同じ風景を見て同じような事を思っている。
共に過ごした時間は短くとも、志を掲げ目指してきたこの時間は、何事にも変え
がたく濃い時だと実感した。
形はなくとも、魂は共に・・・
「そうだな・・・でも、きっとあいつらなら見てるはずだ。魂は俺達と共にある
んだからな」
「そうですね・・・見守ってくれているんですよね」
「あぁ・・・」
また来年、二人で・・・
いや、皆でこの景色を見よう。
酒でも酌み交わしながら。



また風は吹く
雪の上に輝く華を咲かせながら。
真っ白な世界に咲き続ける雪の華。
北の大地に春が訪れるのは、まだ先の話・・・
そして、二人が互いに想いを告げるのはもう少し、ほんの少し先の話。














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1万Hit 御礼+新年のご挨拶の代わりにフリーとさせていただきます。
初土方がフリーでいいのか?
いいんです!だって、新年は土方ではじまったわけですから(笑)
お気に召していただけた寛大な心をお持ちの方がみえましたら、持ってかえってやってください。
そして、煮るなり焼くなり・・・お好きに料理してやってくださいませ。
お待たせして、この程度・・・
本当に申し訳ありません(深々〜〜)
今後とも、よろしくごひいきに。
しかし、相変わらずタイトルつけるの下手だな・・・_| ̄|○


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りんよりvv
待ちに待ったフリーvv早速強奪させて頂きましたっ!!
情景描写が綺麗で、土方さんがいやんvvな程甘くて素敵な一品v極上すい〜つ頂きますっvv



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