brave
なぐさめ合う関係を。
後ろ向きで、それでも愛しいこの時間を。
永遠に…と願うのは、彼から逃げる為。
「 あなたを連れて行きたいけれど… 」
汗で額に張りついた僕の髪を優しい仕種で撫でながら、天蓬さんは僕の瞳を覗き込んだ。
「 僕の居る所は物騒ですから。色んな人があなたに興味を持つでしょうね
」
「 ・・・・・ 」
彼の言葉に返事をする為、僕は乱れた呼吸を整えようと息を吸い込んだ。
その様子を見ながら、天蓬さんは目を細めて僕の目尻に手を伸ばした。
「 ・・・ ちょっと、非道くしちゃったかな・・・
」
「 え ・・・ 」
言われて初めて、自分が涙を流している事に気が付いた。
「 自制が利かないなんて、初めてですよ・・・
」
「 貴方が一番、物騒なんじゃないですか? 」
僕の言葉に天蓬さんは小さく微笑んだ。
「 そうかもしれませんね。もし、他の誰かがあなたを所有していたら、何をしてでも手に入れようとするでしょう
」
僕は少し驚いて天蓬さんを見返した。
「 まさか ・・・ 」
「 意外ですか? 」
軽く、唇を僕のそれに重ねて、天蓬さんはふわりと微笑んだ。
「 実際に側に在ないからかもしれない 」
こんなに近くに居るのに、彼はそう言った。
でも、それはなんとなく理解出来るかもしれない。
どこの誰とも知れない彼を受け入れている自分がいる。
あれほど焦がれるあの人を目の前にする時には、決して感じる事のない安心感に、天蓬さんの側では包まれる。素直に彼の想いを受け止め、それを返す事が出来る。
「 逃げているのは、僕だけじゃないんですね
・・・ 」
天蓬さんの心の奥に在る誰かに、嫉妬を感じない訳ではなかったが、その存在がまた僕を救ってくれていた。
「 痛い事を言いますね、八戒は 」
天蓬さんはそう言って、また笑った。
でもその微笑みは少し辛そうだった。
悪い事を言ったかな、と後悔した。
「 僕は、今のままでいいです。進む事は、あなたとの別れを意味するから。このままここで・・・、あなたと離れたくない
」
それは、僕の本心だった。
或いは、願いだったのかもしれない。
「 嘘吐き 」
突然、天蓬さんの声が低く、響いた。
「 期待しているくせに。責めながら、逃げながら、未来に期待しているくせに
」
自分に言ってるんですよ、と彼は呟いた。
――――― ああ、やはり彼は自分によく似ている。
慰めの言葉など、見つかる筈ないのだ。互いに。
「 いいんです。まだ、気が付かないままでいましょう
」
人差し指を自分の唇にあてて、天蓬さんは微笑んだ。
僕も微笑みを返して、彼の身体を抱きしめた。
いつか、立ち止まってはいられない時が来る。
間に合わないかもしれない。
全てが遅すぎて、現在のこの瞬間を悔やむ時が来るかもしれない。
それでも、この温もりは離し難くて ―――――
・・・ 。
end
深咲さんに頂いた天八に萌えさせて頂きましたっ♪
続きというのもおこがましいおまけです。