いとし君へ3

「なんでお前みたいな鬼畜な男につかまったちまったんだろう、俺」
捲廉は情けなさそうに言った。
「あはは、うまいこといいますね」
鬼畜と言われて喜ぶ男も珍しい。
天蓬元帥は健在だった。
「貴方と働けて光栄ですよ、軍大将殿」
「嘘付け。いけしゃあしゃあと、心にもないことを」
「本当ですって」
天蓬は笑って、捲廉にもたれかかった。
「ところで、書類が溜まってるんですけど」
「・・・お前、利用する意外に俺の使い道ないわけ」
「得意なことを得意な人がやったほうがいいでしょう」
「なんとでも言えよ。わあった。手伝うって」
仕方なさそうに、捲廉は吐息した。
「そのかわり、金蝉が来たからって、追い出すのはなしね」
「わかってますって。じゃあ、これとこれとこれと。終わったら一声かけてくださいね」
「げ、たくさん」

金蝉がドアを開けたとき、ふたりは書類の山に埋もれながら、疲れきった顔で最後のおいこみをしていた。
「なにやってんだあ、おまえら」
「あ、金蝉。ちょうどよかった」
天蓬の笑顔で、金蝉はまずいところにきてしまったという後悔の顔をした。
「おまえ・・・俺にも手伝わせようとか思ってるだろう」
「まだなにもいってないじゃないですか。でも、喉が乾きましたね」
「・・・俺に茶を入れろと?観世音菩薩の甥のこの金蝉童子に」
「甥だろうが、おばだろうがいいから、なんか持って来てくれ」
捲廉が口を挟むと、金蝉は不機嫌な顔で、答えた。
「・・・牛乳でいいか」
険悪なふたりに気づかぬ振りをしつつ、天蓬は席を立った。
「じゃあ、僕がいれてきましょう。待っててくださいね」

天蓬が部屋に戻ったとき、険悪なムードはエスカレートしていた。
「あとは俺が手伝うから、あんたは部屋に戻ってろ」
命令口調で金蝉が言えば、
「そうしたいのは山々だけど、天蓬に頼まれたから、最後までやるわ」
と捲廉が答える。板ばさみの天蓬は小さくなって、
「ビールをもってきました。休憩しましょうか」
と、優しく言った。

「金蝉、はい」
枝豆を渡そうとする天蓬の指をすばやく掴んで、金蝉は、口の中にいれた。
「えっと」
天蓬は呆然として、捲廉の顔色をうかがっている。
捲廉は、感情を押し殺すために、能面のような無表情になった。そして、
「わりい、用事を思い出したわ」
逃げる様に、部屋を出ていった。
「どうして、そーゆー子供っぽいことをするんですか、貴方は」
赤くなった天蓬を無視して、金蝉は彼の細い指を口に含んだまま、
「独占欲」
と答えた。ふたりの視線が絡み合った。
二人はそのまま床の上に倒れこみ、塩の味のするしょっぱいキスを交わした。
「天蓬・・・」
金蝉は、紫の瞳で、愛しい人の瞳の奥を覗きこんだ。
「好きだ・・・」