花月の宵



「 お花見、しませんか?」

窓辺で煙草をふかし、新聞を読んでいた三蔵に尋ねる。
「 何だ、いきなり。」
「 宿の裏に、見事な桜の老木があるんです。 今、見頃ですよ。」
八戒は、徳利と盃を三蔵の目の前でヒラヒラと振った。
酒 ・ ・ ・ 。と言えば悟浄だが、さっきから姿が見えない。
ついでに悟空の姿も見当たらなければ、あの騒がしさも今日はない。

「 あのやかましいサルとカッパはどうした。 」
居ないのなら、気にしなければいいのに。などと、口にはできず、
「 ああ、あの二人なら夕食が済んだら、早々に寝てしまいましたよ。よっぽど疲れていたんでしょうね。」
努めて明るく振る舞う。
「 そうか。」
そっけない返答に八戒が諦めかけた時、
「 こんな静かな夜も珍しいからな。花見酒でもするか。」
無愛想にそう言うと、三蔵は重い腰を上げる。
八戒は本当に嬉しそうに
「 はい!」 と答えた。


八戒に促され、宿の裏への角を曲がったとたん、闇の中、急に視界が開けた。
月明かりに照らされ、齢数百年も経とうかという桜の老木が、短い命をあらんかぎりに咲き誇らせていた。
幾重にも重なった花達は我先にと散り急ぎ、辺りを一面雪景色のように白く染めている。
その夢のような光景に二人は、しばし、言葉を失った。

「 見事 だな。 」
三蔵の声にハッと現実に引き戻されたが、その目はまだ、夢見心地だ。
「 僕もこれほどとは思いませんでした。昼間見るのとでは、また感動が違いますね。 」
三蔵が老木を背に腰を下ろしたので、その向かいに八戒も落ち着く。
「 いい酒ですよ。」
八戒は、早速今夜のために用意しておいたとっておきの酒を、盃についだ。
ハラハラと舞い散る桜の花びらを一枚手に取り、その中へ浮かべ、三蔵に手渡す。
黙ってそれを受け取り、老木に掲げた後、花びらと共に一息に飲み干した。
「 いい酒だ。」
「 でしょう?こう言っちゃなんですけど、悟浄にはもったいないと思いまして。」
( 相変わらず、言いにくい事もサラッと言うヤツだ。)
煙草に火を着けようとしたが、八戒に、
「 今夜はダメです。桜に失礼でしょう?」
と、諌められ、煙草とライタ−をとりあげられてしまった。
不機嫌そうな表情をしたものの、老木にもたれかかり、

「 今夜だけは許してやるよ。夢だとでも思って。」

そう言って桜を仰ぐ彼こそ、夢のように美しいと、この光景をそのまま額の中へ閉じ込めてしまたいと、
八戒は思う。
月明かりに透ける金色の髪は、より一層輝きを増し。
いつもは畏怖の念さえ受ける紫暗の瞳は、柔らかい光を称え、慈しむように桜を見つめている。
吸い込まれるように八戒は彼と唇を合わせた。
その刹那、二人の間に白い花弁がひらりと舞い降り、遮る。
それに驚いた八戒が顔を離すと、花弁はまだ、ヒシと、三蔵の唇に張り付いていた。
むっとした八戒がそれを取ろうと、手を伸ばした瞬間、その手は捕らえられ今度は彼の方から口付けられる。
長い口付けの間、花びらは互いを行来し、やがて溶けるように消えた。
どちらからともなく離れ、月を仰ぎ見る。
今宵は満月。桜のせいもあろうが、いつもより美しく、まるでキラキラと輝く音が降り注いでくるようだ。

三蔵の肩に頭を軽くのせ、
( この時間が永遠に続けばいい ・ ・ ・ 。)
目をそっとふせ自分の頬を伝う涙の理由を考えていた。





翌日、三蔵が起きてくると、いつもどうりの騒がしい朝食風景が繰り広げられていた。
「 悟浄。昨日は早かったみたいだな。」
三蔵の問いかけに、
「 あ〜、昨日ね。夕飯食った後、珍しく茶なんか飲んだらよ、急に眠くなって
気付いたら、朝だったってワケ。何で、あんな爆睡したんだか ・ ・ ・。」
悟浄は首をポキポキと鳴らし、煙草の煙を燻らす。
「 悟浄−!!!飯食ってるときは煙草やめろよな!」
「 うっせぇよサル。」
「 なんだと−!?」

三蔵はまた騒ぎだした二人を放って、八戒に近付くと、
「 薬、盛ったな。」
目を合せずに聞いた。
「 ばれちゃいましたね。だって、あの二人がいると何かと煩いですし。」
ニッコリと笑い、食後のお茶の用意を続ける。
何も言えなくなっている三蔵に、
「 これからは、ちょくちょく静かな夜が過ごせそうですよ?」
と耳打ちした。
( コイツには、敵わんな ・ ・ ・ 。)


窓の外では、桜が今年最後の花を名残り惜しむかのように、咲き誇らせていた。













宵ちゃんからのコメント

あら、っもう終わり?みじかっ!
くさいっすね!自分でもビックリ!?桜の季節よね−vvと思ったら、三×八が動きだしてしまいました。
バ−スディプレゼントとゆ−事で・・・。だめ?やっぱ?いやんv

りんのコメント

いやんvおっけ−よ、おっけ−。
さんぱちも忘れず書いてくれて、ありがとう!うれしいっす!!桜の描写が美しくて・・・。今年は、夜桜一緒にみようぜ・・・、宵・・・。
それにしても、八戒さん、性格悪いねぇ(笑)