今日の為に

最初の一日は空を見て過ごした。
抜けるような青い空を雲がいくつも通りぬけ、緑を眩しく輝かせた太陽が傾く頃、空が暁に染まり青灰に変わり、彼の瞳の色になる一瞬を経て闇を迎える。
食事をする間も僕達は空を見上げていた。
首が痛くなると並んで横になり、星を数えて星座の話をした。
あまりにも当たり前の事に彼が一々感動するから、つられて僕も感動した。
話を聞くと、彼のいた天界の方がずっとずっと、夢の様に美しい所だと僕は思う。でも彼はここのほうが綺麗だと言った。
永遠ではなくなった彼の命。
その現在の方が自分の命を大切に思えると彼は言う。
死の恐怖に脅える地上の生き物は醜いと思っていた。沢山の中の一つの命が欠けることくらい大したことではない、なのに生にしがみつく僕等は滑稽だと。

―――― でも彼は下界に落ちても綺麗だ。

次の日は一緒に食事を作った。
子供に教えるように小さな事から一つ一つ彼に教えた。
彼の繊細だけれど不器用な指がたどたどしく野菜や果物に触れる。
僕が笑うと彼は怒ったように睨んでくる。でも物覚えは早いと思う。
褒めると照れる彼の横顔が可愛い。
こうして限られた時間を二人で過ごすのはとても愛しいと、僕は泣きたくなった。



地上でも俺は何も出来ない役立たずだ。
ただ歩くのも、見るのも、話すことも、生活の全てをこいつに頼らなくてはならない。
でも八戒があんまり楽しそうに笑うから。いつも微笑んで隣にいるから、俺はこのままでもいいのかと、そう思う。
天地の理を変えるほどの重大な罪を犯した俺に、天の采配は甘かった。
今の記憶を持ったまま下界に下ろされた。ただの人間として。
下界落ちは天界人にとって最も辛い罰だそうだが、俺はほっとしていた。
天蓬や捲簾達は苦しそうな表情をしていた。それでも俺が地上でも普通に生活できるよう手配してくれた。それだけで充分だった。
お前等が苦しむ事はない。
俺は、例え八戒よりも早くこの命を終えることになっても、記憶を取られなかったことに感謝したい。限られた短い時間でもこいつと共に過ごす時間をくれた天に感謝している。
地上の者にとってはそれこそが普通なのだ。

俺達がヒマを持て余した頃、計ったようにこの家に来るのは見慣れた三人。
初めてこいつ等に会った宿での夜のようにゲ−ムをしたり、他にも色々な事を俺に教える。
悪いことばかりだから覚えなくてもいいと八戒は言うが・・・。
酒の味も覚えた。
八戒曰く、俺に似ていると言う坊主は相変わらず仏頂面しか見せないが、俺達を見るその目が時々穏やかで、背を押された森の夜を思い出した。
八戒が怒ると本当に怖いと知ったのもこいつらがいるせいだった。
それすら俺にとって嬉しいと思うことだ。
もっともっと八戒を知りたい。
その欲求は日ごと強くなる。
飽きるほど傍にいるのにまだ足りない。
その足りない何かを埋める為に八戒を抱きしめた。
温もりを、他人を求めたことなどただの一度もなかったこの俺が。
愛しくて愛しくて涙が出そうになる。こんな感情も初めて知った。
昔、こいつにも愛した女がいた。今の俺と同じ気持ちでその女を想っていたのだろうと思うが、不思議と彼女に対して怒りも嫉妬も感じない。
それは、八戒がいつも、本当にいつも穏やかに微笑むせい…。




過去も、未来のことも考える時間が勿体無いから、すぐ目前の、明日の事でも考えていよう。

明日は彼に何を教えよう

明日はこいつのどんな表情が見れるだろう

明日は何をしようか

明日も二人で――――・・・

大切な、かけがえのない今日の為に・・・











らぶらぶえんどなんですvv
本編の前にこれ書いてどうすんだよ・・・。