メロンパンふたたび
さすがにもたない。
天蓬ははっきりと自分の体が限界を訴えていることを認めた。
今日、大切な会議を危うく忘れそうになったし、退屈だったので途中で危うく居眠りするところだった。
「天蓬元帥・・・?」
部下の不思議そうな声。
「ん、ああ。どうかした」
気づいたら会議は終わっていた。
「今日は珍しく反論されませんでしたね。賛成だったんですか」
「・・・うん」
聞いてなかったとは言えない。
「そうですか。意外でした。軍大将も気にしておられました」
「捲廉が?そう」
「差し出がましいですが、お疲れのご様子。今日の仕事は引き受けますから、ゆっくりと休まれてはいかかですか」
部下は気遣って、そう申し出た。
「ありがとう。そうだね」
天蓬はその申し出を受けて、自分の部屋へ引き上げた。
「寝てない・・・からなあ」
ソファーに横になると、軍服を脱ぎ捨てて、はやくもうつらうつらし始めた。
「頼むから誰も・・・邪魔しないで・・・寝させて」
そうして意識を手放しかけたとき、軍大将がやってきた。
ノックもしないでずかずかと入り込む。
「てんぽーげんすい。おきてるかあ」
「・・・留守ですよ」
「あのね」
捲廉は元気一杯だ。
「あ、寝てるとこなの。ふうん」
天蓬は寝返りを打って、
「邪魔しないで下さいね。怒りますよ」
と言った。捲廉はおとなしく頷いて、
「わかった。これ差し入れ。後で食えよな」
そのまま出て行こうとする。
「それだけ、ですか」
拍子抜けして、天蓬が言うと、
「おまえ、今日の会議で寝てただろ。ゆうべ、あいつとやりすぎたんだろ」
と捲廉。
「次は俺の番かな−と思って、様子見に来たのさ。あんまり疲れてるみたいだから、治るまで待ってやるよ。優しいだろ」
その恩着せがましい言い方に、思わず笑う天蓬だった。
「わかりました。起きるまで待っててくださいね」
天上で一番美しいと言われる寝顔をみているのも悪くない。
天蓬の寝顔は、うっすらと頬に赤みが差して、無邪気そうに見えた。
おとなぶっているけど、まだ若輩なのだ。無防備に寝顔をさらして。
「かなわね−なあ。お姫様には」
捲廉は自分で持ってきたメロンパンを食べた。
ほんのりと甘くて、皮は硬い。でも中身は舌の上でふんわりと溶ける。
「お前みたい。このパン。とまらない」
起きたとき、怒るかもしれないと思いながら、捲廉はメロンパンをもぐもぐと平らげた。
怒る顔も魅力的なのだ。結局。
「こんなのにはまって、どーするよ俺」
きっと抜け出せない。自力ではとても。美味しすぎて。
「やばいよなあ」
END