ささやかな復讐











 宿屋に泊まるのと野宿するのとでは、どちらが身体を休めるのに、より適しているのだろうか。
 答えを考えるのも馬鹿らしく思えるそんな疑問が、寝台に横になった八戒の頭の中をぐるぐると巡っていた。
 自分にとっては無論、宿屋に泊まれる方が有り難かった。『食う寝る遊ぶ』をなによりも大事にしている悟空にとっても、同様だろうと思う。
 だが、三蔵と悟浄のふたりに対しては、そうも言い切れない気がしてならない。
 もう眠っていてもいい時間だというのに、三蔵は階下の食堂から戻ってきてはいない。隣室を覗けば、悟空が赤子のように熟睡しているだけで、隣の寝台はもぬけ蛻の空だろう。
「まったく、あのふたりはどうしてこう、酒が好きなんでしょうねぇ……」
 いまだに酒瓶が手から放れないであろう三蔵と悟浄を思うと、自然と大きな溜息が出る。
 確かに、窓を開ければ人通りが皆無というほど遅い時間ではなかった。だが部屋の扉の向こうは静寂に包まれていて、宿泊客のほとんどは眠っているか、それでなくても各自の部屋でくつろいでいるはずだった。
「ほんとにもう、せっかく布団で眠れるっていうのに、しょうがない人たちですねぇ……。おや?」
 廊下から聞こえてきた不規則な足音に、再び吐きかけていた溜息が途中で途切れた。
 それは普通に歩いている足音ではなかった。千鳥足、というのだろうか。それが三蔵なら、かなり泥酔して戻ってくるのを覚悟しなければならなかった。
 そして八戒の懸念は現実になってしまった。足音は部屋の前で止まり、扉が乱暴に開いた。
「宴会、やっと終わった……ん、です……か……」
 ぬうっと顔を覗かせた三蔵の姿を目にした途端、八戒の言葉が尻すぼみに消えていった。
 三蔵が無言で部屋に入って扉を閉ざした。そして、じっと八戒を見据えたまま、ふらつく足どりで横たわる彼に近づいてきた。
「三……蔵……?」
 八戒は思わず上半身を起こした。
 目前に立つ三蔵に妙な違和感を感じていた。それは三蔵であって三蔵ではないものだった。少なくとも、八戒にはそう思えた。
 白い肌が上気して、ほんのり桜色に染まっている。弛んだ口元はそれでもだらしない印象は稀薄で、その吐息から甘い芳香がする錯覚さえ覚えた。
 目元は普段のきつい眼差しはそのままに、潤んだ紫の瞳が感情だけが増幅されたように、妙に艶めかしくこちらを眺めている。
 三蔵の全身から、強烈な色香が発散されていた。冷め切ったいつもの三蔵とのあまりの違いに、八戒は遠慮がちに視線を外した。
「ど、うしたん……ですか……?」
 これは見てはいけない三蔵の姿だろうか。好奇心よりもむしろ、戸惑いが心中を占める。
 部屋の空気の匂い自体がいつもと違う気がする。静寂の時間に八戒の視線が宙を彷徨った。そして彼が再びちらりと三蔵を見上げたとき、突然、三蔵の口の端が吊り上がった。
「さん、ぞ……?」
 禍々しいまでに色香を放つ美貌が、にやりとした笑みにかたど象られた瞬間、八戒の背筋に恐怖のようなものがぞくりと這い上がった。
 思わず尻でずり下がった八戒の顎に、三蔵の白い指先が伸びる。払い除ける間もなくがしっと鷲掴みにされたかと思うと、鼻先の触れ合うような距離で美貌が覗き込んできた。
「……今から、おまえを犯してやる」
 喉の奥から絞り出すようにして吐き出された声が、なにを言っているのか理解するまでに、わずかばかりの時間が必要だった。
「……え……? ええッ?」
 叫んだときにはすでに押し倒されていた。上掛けが剥ぎ取られ、身体の上に直に乗り上げられて、八戒は硬直した。
「ちょっと三蔵ッ! 待ってくださ、あっ!ダメ、ですって、ばっ!」
 だが、酔っぱらいを相手にどこまで本気で抗っていいのかわからない。いくら無体を働いたといっても、三蔵の身を考えないわけにはいかなかった。
 その迷いが、八戒の抵抗を遅らせた。
三蔵の右手が八戒のズボンを下着ごと引きずり下ろしたかと思うと、剥き出しになった下半身をぐいっと掴んだ。
 なんの反応も示していないソコを三蔵の指先が強引に扱き始めて、八戒は慌てた。
「あああッ! ダメですってばッ!」
 恐怖と戸惑いと焦燥感。それらがごちゃ混ぜになって頭が正常に働かない。次第に勃ち上がっていく己のモノを感じながら、八戒はひたすら焦って、この状況をどうにか打開しようと身を捩った。
「三蔵ッ? 酔ってるんでしょ? なにしてるのか、わかってるんですか? あッ……」
 それでも先端をグリリと揉まれて思わず声を上げた瞬間、八戒の心の奥底で眠っていたものが静かに覚醒を始めた。
「あ、あ、……んん……ッ」
 自分ではない誰かの手が、ソコに触れる感触。
 妙に懐かしく、なぜか幸せで、ぬるま湯に浸かったような心地よい感覚。
 その反面、強烈に切なくて、苦しくて、でもそれは決して不快な感情ではなくて……。
 いったいこれは、なんなのだ……?
 八戒自身の気付かぬところで、魂に刻み込まれた感覚は徐々に八戒の心身の強張りを解きほぐしていった。
「あ、ああ……」
 身体に力が入らない。三蔵を押しのけようとしていた腕は宙を彷徨い、そして敷布に沈んだ。
 下腹から体表面を這い上がってきた手の平が、胸元を探るように動く。そのまま首筋をつたってうなじに差し込まれた指先での愛撫に、いつしか八戒は喘いでいた。
「イイみたいだな……」
 フンッと鼻を鳴らせた声は、それでも確かに三蔵のものだった。
 懐かしさなど、なぜ感じるのだろう。
 三蔵と契った記憶など、八戒には無論ない。それどころか、同性に抱かれた経験すらないはずだった。
 男の三蔵に嬲られて、悦び始めたいやらしい肉体。やましい気持ちに八戒の理性は一瞬反応し、だがすぐに眠りについた。
 所詮、今更じゃないか、と八戒は自嘲する。
 姉弟で契った過去。そして男同士で肌を合わせるいま現在。一度禁忌の色に染まった肉体は、もはや元の色には戻らないのかもしれない。
 罪を犯し続ける肉体。
 だが禁忌を犯す罪悪感など、とうの昔に捨ててしまっていた。互いに罪を受け入れ合う関係なら、誰に非難されようともそれは実質、罪などではないと思ったし、今になってもそう断言できる。
 だったら、今更なにを恐れる必要があるというのだろう。
 三蔵がなぜ突然こんな行為に及んだのか、その真意は見えないけれど、三蔵が欲しいと言うのならばこの身体を与えてもいい気がする。
「三蔵……」
 首筋を滑る手に、自らの手を重ねて瞳を閉じた。手の平に触れる三蔵の体温が、なぜか懐かしい気がしてならない。
 だが、指に指を絡めた瞬間、いきなり勢いよく払い除けられて八戒は目を見開いた。
「三蔵……? あうッ!」
 突然、二の腕を強い力で引き上げられたかと思うと、身体を裏返しにされた。寝台に頭を押さえつけられ、同時に腹の下に差し入れられた腕で尻を持ち上げられる。
 不安定な身体を支えるために思わず膝をついた八戒は、おのずと尻を高く突き出したあられもない姿勢をとることになる。
 受け入れ専用以外に考えようがない、恥ずかしい体位。実際に後庭を性器として使った経験はなかったが、知識としてはあった。
 だから今から三蔵がしようとしていることも、そして我が身に起こるであろうことも、八戒には想像がついた。
 排泄器官に欲望を受け入れるのは、かなりの痛みを伴うだろうか。
 それでも不思議と恐怖心は湧かなかった。
 理由はわからないけれど、なぜか今、三蔵を欲しいと思った。欲望を突き刺され、快感に喘がされ、共に果てたいと思った。
「ココ使われンの、初めてだろ?」
 後ろの周囲を指先で円を描くように撫でられる。くすぐったいような、もどかしいような感覚に、思わず腰をくねらせた。
「いやに素直じゃねぇか……。ちったぁ、悪かったって思ってんのかよ?」
「え……?」
 自分はなにか三蔵の気に障るようなことをしただろうか? ぼんやりした頭で考えてみても、思い当たる節はない。
「なにか……しましたっけ? 僕……」
「白々しいコトぬかしてンじゃねーよ」
「そんなこと言われッ……、あッ!」
 指が中に侵入してくる。そのままぐりぐりと掻き回されて、さらに声が上がった。
 なにかを三蔵は怒っているようだった。けれど、思案しようにも、抜き差しが始まった秘部から伝わるぞくりとするような感覚に翻弄されて、考えは一向にまとまらない。
 押し出したいような、もっと深く抉って欲しいような奇妙な感覚。
 アソコで三蔵の指を挟み込んでいるという羞恥が、欲情に変換されていく。
「あっ、ああっ、あ……。三蔵……ダメ……」
「ダメ、じゃねぇだろぉ? てめェもてめェの身体で犯られる痛みを知れってンだッ!」
「なにをっ、あっ、ああ……ッ!」
 三蔵がなんのことを言っているのか、皆目わからない。だが、それ以上深く考えることは出来なかった。
「うわああー……ッ<」
 脳天を貫くような激痛を伴って、三蔵が無理矢理押し入ってきた。一瞬にして硬直した身体は門をきつく締め付ける。
「うッ……。締めつけんなよ、なぁ。下のお口で喰い千切る気、か?」
「あっ、あっ、あっ、あっ……!」
 額に脂汗が滲む。激痛から逃れようと、必死になって身体の力を抜く。だがソコが少し弛んだ途端、三蔵が腰を使い始めた。
「あ、ああー……ッ!」
 異物の押し込まれる圧迫感。ギリギリまで抜かれては、息をつく間も与えられず再びグイッと突っ込まれる。
 快感などなかった。慣れない身体には、性交というよりは拷問に近い感覚だった。
 痛みと嫌悪感が脳を満たす。歯を食いしばり、ギュッと枕を掴んでひたすら耐えるしかなかった。
 腰を強く掴まれている痛みはもはや感じない。すべての感覚が痛覚となり、後庭に凝縮されている気さえした。
 痛い。苦しい。助けて……。
 少しでも楽になれはしないかと、わからないなにかを必死で探す。
 だが、そうして苦しんでいた時間は、実際はそう長くはなかったのかもしれない。一カ所に集中していた感覚が、突然、前に移動した。
「うっ、ああ、……ん……」
 思わず甘い声が零れていた。
 痛みで縮み上がっていたモノに、再び凄い勢いで血流が集まっていく。内側から前立腺を擦り上げられる刺激に、前が痛いほど張りつめていく。
 硬直していた身体は、いつのまにか程良く弛んでいた。三蔵の与える激しい抽送を、悦びを伴って受け入れていた。
 鮮烈な快感が脳を冒す。
 三蔵の体内を巡るアルコールが、結合部を通じて流れ込んでくるような気がする。満たされていく己の欲望に、次第に身も心も酔いが回っていく。
 なんて、懐かしい……感覚……。
 幻覚を見ているのかと、八戒は思った。
 三蔵と抱き合う行為など今が初めてだというのに、どういうわけだか苦しいほどに懐かしく、泣きたくなるほどに幸せを感じた。
「うッ……」
 三蔵が呻く。苦しいような、切ないようなその声は、快感の証。
 三蔵がこの身体を欲しがっている。狭い内壁を擦り上げる刺激に、感じている。
 そして、自分も……。
 八戒はより深い快感を得ようと、三蔵の動きに合わせて腰をくねらせた。
 快感の次元が高まってくる。精を吐きたいという排泄欲が押さえきれなくなってくる。
「あ、も、……ダメ……イキた、い……」
 八戒の内部からも、怒張がぐっと体積を増して弾ける予感を知らせてくる。
 ふたつの欲望は触手を伸ばして互いを愛撫し合い、さらに登り詰めて渦を巻いて絡み合う。
 繋がったふたつの身体が、共鳴する。
「あああ……ッ!」
 突然、八戒の脳裏が鮮明になった。
 この共鳴を、自分はよく知っていたではないか……。
 それは八戒の魂が覚えていた、遠い日の記憶。短くとも幸せだった、姉の花喃との日々。
 裸の素肌を密着させ、溶け合うように抱き合う悦び。魂の共鳴に、身の震えるような幸せを噛みしめていた日々を、自分は忘れてなどいなかったのだ。
 愛す者と一体になる、これ以上はない幸せ。
 それを失くして以来、自分はずっと飢えていたのだ。
 愛す、ということに……。そして、愛される、ということに……。
 魂の共鳴できる相手をずっと望んでいたクセに、ずっとそれに気付かず、孤独という寒さに身を晒して自分はひとり震えていたのだ。
 三蔵という名の、自分の魂を救ってくれた恩人。彼のためなら我が身を投げ出せると思っていたこの気持ちは、とうの昔にただの恩返しなどではなくなっていたのだ。
 愛、という存在の出現によって……。
 そうとは気付かず今日まで来てしまった自分。そして三蔵の突然の行為に、初めて自分の本心を知った、今……。
 もしも今日、三蔵が正体を失くすほどに酔っていなければ、この自分の気持ちに気付くことは永遠になかったかもしれない。
「うう……ッ!」
「三……蔵ぉ……ッ!」
 八戒のソレから、勢い良く精が吐き出される。同時に、彼の体内奥深くにも同じものがそそぎ込まれた。
 八戒の身体が脱力して、秘部から三蔵の一物がズルリと抜け出る。ふたりをつなぎ止めておいた存在の消滅に、寝台に突っ伏した八戒は放出の余韻を深く体内に残したまま、荒い息をついていた。
 生きていて良かったと、八戒は思った。愛し、愛される自分がなによりも誇らしく、同時にこれ以上はなく幸せだと思った。
 この三蔵の一言を聞くまでは……。
「おい。自分が犯ったヤツに犯されるってーのは、どういう……気分……だ……?」
「なッ……!」
 咄嗟に身体を捻って飛び起きようとした八戒の胸元に、三蔵が倒れ込んできた。
 受け止めようと伸ばされた腕は間に合わず、三蔵を抱きしめた格好で再び八戒は寝台に沈み込んだ。
 腕の中の肉体は完全に眠りの世界に意識を飛ばせていた。すやすやと眠る三蔵を胸に抱えたまま、八戒は呆然としていた。
「いったい……どういうこと、なんですか……?」
 自分が犯した者に犯されるのは、どういう気分だ? 確かに三蔵はそう言った。
 小馬鹿にしたような声で、含み笑いを洩らしながら、そう言ったのだ。
「僕……、あなたを抱いたことなんて、ありませんけど……」
 ならば考えられることは、ひとつだけ。
 三蔵は、自分と他の誰かを間違えたのだ。
 三蔵の肉体をおもちゃにした過去の誰かと自分を、酔って訳がわからなくなって取り違えたのだ。
 だから三蔵が今日、自分を抱いたのは復讐のため。自分を欲しがってくれたわけではなかったのだ。
 頭をブン殴られたようなショックに、八戒はしばらくの間、口も利けなかった。
 完全に気を失っている三蔵を胸に抱いたまま、どれほど長い時間そうしていただろう。
 八戒はふうっと大きな溜息をつくと、起き上がった。その拍子に三蔵の身体が大きく揺れたが、それでも彼が目覚める様子は微塵もなかった。
 八戒は三蔵の裸体を抱え直すと、仰向けにして寝台にそろりと横たえた。
 ぼんやりした灯りに照らされた肉体は、日焼けをしないたち質なのか白さが際立っていた。こうして改めてじっくり眺めてみると、その肌は驚くほどきめ肌理が細かくて、所々にある傷跡を憎みたくさえなってしまう。
 男らしい上半身を逆三角形と形容するには、肩幅が狭すぎる気がする。それでも雄の匂いを感じるのは、男にしてはかなり引き締まった細い腰のせいだろう。
 この華奢にさえ見える身体が、本当に、今し方自分を抱いた肉体なのか……?
 先ほどの行為が、まるで夢のように思える。
 誰かに陵辱された経験があるらしい、三蔵の肉体。彼を犯したのが誰かはわからないが、無抵抗で横たわるそれを前にして、その人物の気持ちもわからないではなかった。
「それでもねぇ……、あなたも傷付いたんでしょうけど、僕の方がずっと……傷付いたんですよ……」
 同じ、犯される、という行為。
 だが、肉体の傷は消えても、心に受けた傷はなかなか癒せるものではない。
「だから、これは僕なりの復讐です……」
 八戒は三蔵の投げ出された両足の間に身体を沈めると、三蔵のソレを口に含んだ。
 ぴちゃりぴちゃりという、猫が乳を舐めるような音が響く。一度の放出では足りなかったのか、ソレはすぐに頭をもたげ始めた。
 膨らんでいくモノを、八戒は丁寧に舐め上げた。柔らかい下生えが口元をくすぐっていく。時折ぴくりと三蔵の全身が震えて、掠れた甘い吐息が上がった。
 八戒はソレを銜えたまま、上目遣いに三蔵を見上げた。
 眉間に微かに寄る皺。それでも目蓋は閉じたままで、紫色の瞳は見えない。半開きの口元から赤い舌がちらりと覗いて、唇を舐めた。
 細い顎先が上を向き、後頭部をゆっくりと敷布に擦り付ける。ああ、という昂ぶった声が再び口を割っても、三蔵が目覚める気配はまったくない。
 八戒は視線を下げた。
 白い腹が呼吸に合わせてゆっくりと上下している。へこんだ臍の縦長のラインが、芸術的に美しくて思わず見惚れた。
「あっ……、んんっ……」
 先ほどの行為では聞けなかった甘美な声が、惜しげもなく零れていく。普段の三蔵からは想像もつかないエロティックな声に、八戒の下半身が疼きを増す。
「あなたを抱いた誰かにも、こんな淫らな声をたっぷり聞かせてあげたんですか……?」
 舌を使いながら、八戒は自分の下腹部に手を伸ばして扱き始めた。すでに硬くなっていたソレは、すぐに解放を求めて騒ぎ出す。
 口腔を犯されて、だが意識のない肉体を自由にして、どちらが犯されているのかわからない、それは不思議な交わりだった。
 口の中のモノが、次第に限界を訴え始める。絶頂に向けて八戒は夢中でソレをしゃぶった。
 そしてついに、生暖かい液体が喉に放出された。同時に八戒は自身に両手をあてがい、左の手の平に自分の放った液体を受け止めた。
 八戒はゆっくりと身体を起こした。
 ベタつく左手をそろりと持ち上げて指を開くと、うっとりと微笑んでそれを口元に持っていった。
 三蔵の精液を口に含んだまま、八戒は自らの精液を舐め始めた。白濁した液体が指の間からたらりと一筋流れ出すのを、赤い舌が追いかけていった。
 すべて舐め取ってしまうと、八戒は身体を伸ばして三蔵に軽く体重をかけた。乱れた金の髪に両手の指を差し込み、眠る美貌を恍惚の表情で見下ろした。
 八戒の唇が三蔵のそれと重なる。舌を差し込んで開かせた口に、八戒は自分の口内の青臭い液体を流し込んだ。軽く左右に振られる頭を押さえつけて、舌に舌を絡めた。
 ふたり分の精液と唾液が混ざり合って、重ね合わされたふたつの口腔内を行き来する。八戒の舌が、それらの液体を三蔵の舌と粘膜に、執拗に塗りつけていく。
 塞がれた口の端から、多過ぎたものが流れ出して頬をつたう。それは重力に導かれて、さらに流れて金の髪を汚した。
 三蔵の喉の奥からごくりと嚥下する音がして、八戒は唇を離した。エクスタシーを超える陶酔境に浸りながら、八戒もまた、口の中の残滓を飲み下した。
 自らの濡れた唇をちらりと舐めてから、八戒は三蔵の首筋に再び唇を触れた。そして、首の付け根の柔らかい部分に吸いついた。
 薄い皮膚が鬱血して、赤い痣になる。八戒は満足げに微笑んでそれを見下ろした。
「三蔵……。明日あなたはこれを見て、きっと悩むんでしょうね。なんせ、なんの覚えもないんですから……」
 おそらく、今夜の記憶は三蔵には残らない。
 八戒がこんな悪戯をしたことも、そして、自分が八戒を抱いたことも、なにもかもが三蔵にとっては忘却の彼方の出来事になる。
「けど、それくらい悩んでくれなきゃ、僕は救われないじゃないですか。だって……、僕なんて、これからずっと悩み続けるんですよ……?」
 八戒の瞳が潤む。
 知ってしまった自分の想いに、これから先、恋い焦がれてその苦しみにのたうち回る夜を、いったいいくつ過ごせばよいのだろう。
 三蔵を愛していることなど、いっそ気が付かなければ良かったのかもしれないと、悔やむ日さえあるかもしれない。
 それでも……、と八戒は思う。
 それでも、再び人を愛す素晴らしさを知った自分は、なにかが確かに変わった気がする。そしてその変化が、今までになく輝いた将来の自分に出会える、前兆のように感じてならない。
 真っ直ぐ前を向いて生きてさえいれば、道は必ず開けていくもの。
 だから、この想いは無くさない。
 だから、今、決めた。
「三蔵、覚悟してくださいね。ずっと、あなたを追いかけていきますから……」
 八戒はふわりと微笑んだ。
 この瞬間、彼の新しい人生が産声を上げた。
   







--------------------------------------------------------------------------------

執筆者・滝上さまよりのコメント

鈴華りんさまに捧げようと思って書いた3×8小説です。
私自身は5×3または捲×金の人なので、どうもちゃんと3×8になっている感じがしませんが、
ご容赦くださいませ。
それで、あの〜。・・・エロすぎたでしょうか?
ちなみに私の5×3小説は、狐平党さま発行の「四面蒼化弐」に載せていただいております。
こちらも同程度にはエロいです。
よろしければ御覧になってくださいませ。

それから、この小説の中で三蔵に悪戯を働いたのは、無論、あの人です!



鈴華りんより

ありがとうございます!!
きゃあvvv私にはそれはもう刺激的すぎましてよ!なんちゃってv(←ウソかい)
いやいや(イミフメイ)やはり萌えキャラは愛されてなきゃvですよね!基本です!攻めてもどこか受け臭い三蔵様もとても素敵ですvv愛しつづける決心をした八戒さんも素敵v無理言ってすみませんでした!忙しいところ本当にありがとうございました!


ブラウザにてお戻り下さい