SURREAL
「お、めずらしい客だなぁ」
本日宿を取った町の、割合客入りの良い酒場でめずらしく一人で飲んでいた紅い髪の男が嬉しそうな声を出してその“珍客”を迎えた。
「たまには一緒に飲もうかと思いまして」
その“珍客”は隣に腰掛けると、いつも道りにっこりと微笑んだ。だが、その笑顔が微妙に強張っているのを、こういう事には目敏い悟浄は見逃さなかった。
「何、三蔵と何かあった?」
珍客の来訪で生気の戻りつつある紅の瞳で悟浄は八戒を覗き込んだ。
自分の心の内を見透かされ、戸惑いながらも八戒は
「…気付かなくていい事には異常に鋭いんですよね、悟浄は」
とだけ答えた。
ふ、と小さく溜息をつくと八戒は、日本酒がなみなみと注がれたグラスに口をつけた。
「八戒さぁ、そんなウダウダ考えるより、サクっと押し倒しちまえよ。あ−ゆ−タイプは案外、押しに弱えぇのよ?」
そう言いながら悟浄は煙草に火を点けながらチラリと八戒を見やった。
「まるで経験者ですね」
――――――二人の間に奇妙な沈黙が流れた―――――
「いやぁ、一般論よ、一般論」
八戒の見つめる、というより睨むに近い視線を浴びながら、必死にごまかそうとする悟浄。
「でもオレは別にあの生臭坊主を一人占めしたいとか思わねぇぞ。なんて−か、あれほどの美人だと食指が思わず、ってトコかな」
言い訳ってのはすればするほどドツボにハマる。そのことを悟浄は身を持って痛感していた。
「はあ、僕も悟浄みたく軽−く生きれたらって思いますよ。こういう問題の時は特に」
呆れ顔で言いながら八戒は続けた。
「それに…」
ふと視線を落とすと聞こえるか聞こえないかの声で
「押し倒すなら僕にもできますよ」
意外な言葉に悟浄が
「何、逆なの?」
と聞くと、八戒はこくんと頷いた。
「…そうかぁ、ま、男ならぱ−っとくれちまえよ」
いかにも悟浄らしい言葉に八戒は苦笑した。
「受け止めてもらえなかったら?と一番に考えてしまうんです。そんな事になったらこの先旅を続けていく自信は僕にはありません」
(いかにもこいつが考えそ−なこった)
悟浄は煙草の煙を上に一直線に吐き出しながら、
「そんときゃ、そんときだろ、アイツ程何考えてっかわかんね−ヤツもいねぇからな、当たって砕けろだ」
「砕けちゃだめじゃないですか」
(他人事だと思って)
悟浄の言葉に八戒は少なからずむっとした。
「まあな、でも砕けてみなきゃ分かんね−コトもあるんじゃねえの?
アイツに関わって無事に済むワケね−んだし?」
―――――砕けてみなければ分からない…考えているだけでは前へ進めない…。
そうか、それが聞きたかったんだ。僕の背中を押してくれる一言。
八戒はグラスの酒を一気に飲み干すと、店に入ってきた時とは違う晴れやかな笑顔で
「ありがとうございます、悟浄。なんか軽くなりました」
と言った。思いもかけないお礼の言葉に悟浄はむずむずしながら
「何だよ、気味悪ィ…」
と、ひとこと言うと、黙って八戒のグラスに酒を注いだ。
「今日は飲みましょう」
「おう」
―――――この二人のやりとりを一部始終聞いていた者がいた。
二人が座っていた席のすぐ側の窓の外に、切れた煙草を買いに出た三蔵が一人…。
店に入る八戒を見掛けたが、いつもと違うその様子に声が掛けられず、とりあえず様子を見ようと落ち着いたのだった。
「チッ、余計な事を…」
一言つぶやくと三蔵は夜の闇へと消えていった。
その言葉がどちらに向けられたものだったか…。
―――次の日の朝、二日酔いの悟浄を尻目に、前日より少しばかり仲の良い二人の姿があった。
2へ続く
宵ちゃんからのコメント
ぎゃ−!りんたん、ごめんなさい!
やおいなんて微塵も入ってないどころか三×八にもなっていない!
八戒は三蔵にらぶらぶベ−スになっちゃうんで・・・三蔵は思ってても口には出さないぞ、的な。
悟×三メインな私なので、りんたん好みのお話ではないと思ふ。
次は三×八を・・・がんばりんス−・・・。ぷっしゅう−・・・。
鈴華からのコメント
とんでもございませんわ、でばがめ三蔵がかわいかったです。
私としてはどうしてこの二人が仲良くなったのかが気になって仕方有りません。
無理を言ってしまって申し訳ございませんでした−。
次は三×八を・・・期待していいのね?うふ。