SURREAL 2

「ただいま…帰りました…。」
酔いつぶれた悟浄を担いで八戒が宿に戻ったのは午前二時を裕にまわっていた。部屋では三蔵が煙草をふかしながら新聞を読んでいる。一人だ。
こんな時間まで起きているとは思わなかったので、八戒は少し驚いた。
そして、ふと悟空がいないのに気付く。
「悟空はどうしたんですか?」
三蔵は新聞から目を離さずに
「隣の部屋だ。一部屋キャンセルがでたんでな、ウルセ−から移した。そのカッパも隣に放り込んどけ」
それだけ言うと、また新しい煙草に火をつけた。
八戒が灰皿に目をやると二箱分はあるだろう、吸い殻が積まれている。
「眠れなかったんですか?」
聞いてみたが、返事はない。
(もしかして、待っていた…?)
そう思ってはみたが、そんな事ある訳がない。八戒は首を左右に小さく振り、甘い考えを消した。
言われたとおり、隣の部屋に行くと、悟空が高いいびきで寝入っている。妖怪が来ても起きそうもない。
部屋の隅にあるもう一つのベッドへ悟浄を寝かせると、その隣へ腰を掛けた。
(今夜は三蔵と相部屋か…)
先程飲みながら悟浄に押された背中が後ずさりするのを感じる。
はぁ、と大きな溜息をついて、八戒が立ち上がろうとすると、悟浄が八戒の手首をつかんだ。八戒がぎょっとして悟浄の方を見ると、
「…頑張れよ−…」
と、一言言うと、またいびきをかき始めた。八戒はしばらく立ちすくんでいたが、小さく微笑むといびきの大合唱が始まったその部屋を後にした。
――――本当にできるのだろうか…。
自分の神にも等しいあの人に…――――
意を決して八戒は三蔵が待つ部屋のドアを開けた。
――――?―――――
(三蔵がいない?)
先程座っていた窓辺の椅子に三蔵の姿がない。八戒が不思議に思いながら後ろ手でドアを閉めた途端、
「おい」
突然、八戒のすぐ左側から声がした。不意をつかれ八戒がひるんだ隙に、三蔵が八戒の右腕を捕らえ、脇に置いてあったベッドへ引き倒す。
木のベッドにうすい布団を敷いただけのベッドに力任せにたたきつけられ、 八戒は衝撃と痛みに顔をしかめた。目を開けると、八戒の上に馬乗りになった三蔵が彼を見下ろしていた。
「どうしたんですか、三ぞっ…!!」
八戒が言い終わらないうちに三蔵の形の整った口唇が八戒のそれを覆う。
(何故、こんなことを…)
三蔵が顔を離し、八戒の瞳を見つめる。
射るような視線。
―――目が離せない―――
彼は、欲してやまなかった、その紫暗の瞳に完全に捕らえられていた。
「―――何を考えている?」
三蔵の声が静寂を破る。
「……」
全てを見透かされているようで、八戒は声が出なかった。
「てめぇは誰を見ていた?」
紫暗の瞳はさっきよりも強く八戒を縛る。その視線に耐えられず
「貴方を…見ていました」
八戒がやっとその一言だけ発すると、三蔵は満足そうな瞳で笑い、八戒の右手の戒めを解いた。
「貴様、俺が貴様を拒絶したら、と言っていたな?」
(聞かれていた!?先刻の悟浄との会話―――!?)
八戒は体中の力が抜けてゆくのを感じた。
「その逆は考えね−のか、マイナス思考すぎんだよ、ウゼェ…」
そう言うと、もう一度口付けた。
「くだらねぇ事ばかり考えてんじゃねぇよ。てめぇは、俺だけ見てればいいんだ」
三蔵の言葉に八戒は嬉しくて気を失いそうになった。
三蔵は八戒の服に手をかけ、モノクルを外し、右目にそっと口付ける。
三蔵に身を任せながら八戒は、長い間一緒に旅をしていて、こんなに間近で三蔵を見るのはこれが初めてかもしれない、と思っていた。
薄暗い電灯の明かりでもキラキラと光る金色の髪、長くて綺麗な睫毛、白くてキメ細かい肌、そして、煙草の匂いの混じった甘い三蔵の香り…。
全て、今夜初めて気付く事だ。
熱いものが込み上げてきて、八戒の瞳を濡らす。
三蔵は八戒の頬に口付けてその雫を吸い取った。
「三蔵…」



翌朝、八戒が目覚めると、部屋には三蔵の姿はなく、昨夜の事は夢だったのではないかと思わせた。
だが、身体についた赤い痕が事実であった事を証明している。
八戒は服を着ると、足早に食堂へと急いだ。食堂には朝食をとっている悟空。二日酔いの為トマトジュ−スの悟浄。そして、窓際の日当たりの良い席で煙草の煙を燻らせながら新聞を読んでいる三蔵。
八戒はしばらくその光景に見入っていた。戸口の八戒に気付いた悟空が
「八戒、おはよう。遅かったな」
と言いながら近寄ってきた。
「おはようございます。昨日、遅かったものですから」
と、八戒は苦笑いをした。
「八戒の分、三蔵のテ−ブルに置いてあるぞ」
―――――どくん、――――― 心臓の音が聞こえる。
(三蔵とどんな顔で会えばいいんでしょう…)
ちらりと窓際のテ−ブルに目をやるが、三蔵は相変わらず新聞を読んでいる。
悟空はさっさと自分の席に戻って続きを食べはじめていた。自分の朝食が用意されている席に着くと八戒は
「おはようございます、三蔵」
いつも通り微笑む。
「ああ」
こっちに視線もくれない。
(こんなものか…)と思い、八戒が朝食を取り始めると
「出発はもう少し日が高くなってからでいい。ゆっくり食え」
と、三蔵の口から信じられない言葉が聞かされた。
小声だったので、八戒にしか聞き取れなかっただろう。


二人の間の空気が柔らかくなっている理由…、
昨夜何があったのか、悟浄だけは確認するまでもなく分かっていた。




end






宵ちゃんからのコメント
きゃ−きゃ−!恥ずかし−!なに!?この甘甘ぶりは、三蔵ニセモノ爆裂!!
展開が早すぎるけど、もう、いっぱいいっぱいなので気にしないでください。足りない描写がございますが、以下同文…。私にはこれが限界かも−。もう、書き逃げっっ!!ぴゅ−っっ!

鈴華からのコメント

いやん、らぶらぶ。この、ちょっと強引な三蔵様は、ツボです!
ありがとう!!またよろしくねっ!悟浄はめちゃいい人ですね。そうなの、彼はやさしいのよねぇ・・・。