激情 弐







闇が迫る薄暗い室内で、銀時は沖田を抱いた。

引き千切ったシャツのボタンがあちこちに散らばっている。
後ろから挿入した瞬間持っていかれそうになり、銀時はやっとの思いでそれを堪えた。
慣らされた沖田の内部は温かく、銀時自身に執拗に絡みつく。彼をこんな風にしたのは、あの男。
思い出したくもないその顔が頭を過ぎり、銀時はそれを振り払うように腰を打ち付けた。
敏感なこの身体は男を拒まない。嫉妬で胸が焼けそうだ。
何故もっと早く気付かなかったのだろう。土方に奪われる前に。
薄い胸を弄り、耳に舌を這わせると、沖田の身体はふるりと震えた。
形を変えつつある中心に指を絡めると甘い声が漏れる。
「――あっ・・・・」
その甘美な響きに眩暈を覚えた。
緩やかに、偶に強く指を動かすと、沖田は堪えられないように手を握りしめた。先から流れ出る先走りの液を掬い、彼の目の前に見せつけるように持って行く。
「もう降参?」
意地悪く聞くと、銀時の手から目を逸らして彼は小さく頷いた。
「・・・も、イく・・・」
彼も確かに感じているのだという事実が銀時の身体を熱くさせる。愛しくて堪らない気持ちが湧き上がった。
強く、彼の昂ぶりを上下に扱くと、僅かな明かりに照らされた白い背中が弓なりに反り返った。
「―――ん・・・、あぁ・・・っ」
銀時の手の中に欲望を吐き出した彼はびくりと痙攣し、同時に銀時の猛った部分を強く刺激する。
目の前が霞むほどの快楽を与えられ、銀時は我を忘れたように到達へと向けて意識を集中した。

恋なんて綺麗なものじゃない。ましてや愛などと呼ぶにはおこがましい。
激情に身を任せただけの、この行為。
泣きそうな顔をして沖田は「嫌だ」と言った。
土方には許して何故自分は許さないのかと、怒りが込み上げた。そのまま、理不尽な気持ちを押し付けた。
本当に嫌なら殴ればいい。斬り付ければいい。
そう言った銀時に、彼は出来ないと首を振った。
ちくりと良心が痛んだのはこの時。けれど、情けないが一瞬だった。
本気で抵抗しないのを察した銀時は彼に口付け、その衣服を剥ぎ取った。










月の明かりが僅かに隙間から差し込んでいる。
「ひでェ格好だなァ」
埃と汗で汚れた互いの姿を見比べて沖田は口の端を歪めて笑った。銀時も苦い笑みを返す。
「とりあえず、泊まるトコ探さなきゃな」
「・・・もう、帰る気はねェのかィ?」
沖田は膝を抱えた格好で銀時を見上げた。頼りないその姿に、どちらが迷い人かわからないな、と銀時は思った。
「帰れないでしょ。お前もそのカッコじゃ帰れねぇよな」
「・・・ああ。・・・でも旦那は、守らなきゃいけねェもんがあるんじゃねェのかィ?」
銀時は沖田を見た。
考えないようにしていた。知らない内に背負っていた者達を。
「・・・ねぇよ、ンなもん」
行くぞ、と目で合図して、銀時は扉を開けた。
目立つ隊服を着た沖田を連れて何処まで逃げられるか分からない。此処が見つからなかったのも運が良かった。
こんな時に坂本がいれば迷惑掛けてやるのに、肝心な時に現われない。
銀時は考え込んだ。
「・・・旦那ァ、取り合えず着替え買って宿でも取りやしょうぜィ」
「そんな金、どこにあんの?」
銀時は沖田を振り返り、気付いた。彼は幕府預かり。つまり、銀時よりは裕福だ。
「馬鹿。人の多い所なんか行けるわけねーだろが」
つまらない男のプライドがそれを認めず、銀時は歩調を速めた。
気付くと、川岸まで来ていた。ふと、前から人影が近付いてくるのに気付いた銀時は身構えた。
「探したぜ、白夜叉」
「・・・高っ・・・」
銀時は散歩の途中でもあるかのような高杉の姿を認めると、目を見開いた。
「何やったんだ、お前。真撰組のヤツら銀髪の侍を血眼になって探してるぜ?お陰で俺までヤバい」
「―――っ全部のお前のせいだよ!!責任取れっ!てか、慰謝料よこせっ!!」
噛み付くように銀時は高杉に詰め寄った。
そんな銀時の肩を沖田が掴む。
「・・・旦那、まさか・・・、その男・・・」
―――マズイ対面だ。
銀時は舌打ちした。
「そいつか」
高杉が沖田を見て言った。
「―――高杉、か・・・!?」
すらりと剣を抜く沖田に銀時は頭を抱えた。
「ちょい待ち、総悟君。ここでやり合っても仕方ないからね」
「旦那、こいつが何やったか知ってんでしょう?庇うんですかィ?」
沖田がちらりと銀時に走らせた視線に、顔が強張る。
邪魔するな、と目で威嚇された。
この目だ。
銀時は思った。
正義を翳している訳ではない。奇麗事を言う訳でも、自分の手が汚れていないと思っている訳でもない。
自分よりも、大切な者よりも、形にならない大事な何かがある目だ。
それを“魂だ”と言ったのは自分だった気がする。
「好きにしてもいいけど、今はそれより自分を助けたいから」
銀時は沖田の腕を掴んだ。
「・・・離せよ、旦那。何でアンタこいつは野放しに出来るんでィ?」
「こいつさ、見た目ほど悪くねぇ・・・って、いや、悪いんだけどさ、やってる事は悪いよ、うん。俺にも容赦ないし。でも刃向かってこない相手遣っ付けれねーじゃん。てか、強ぇよ、こいつ。自分から怪我すんのヤじゃん」
高杉は二人の遣り取りを眺めて、面白そうににやにやと笑っている。
「おい、黒いの。来るなら相手になるが、それどころじゃねぇ格好だよなぁ、お前等」
沖田は、はっと自分の姿を見て、破れた服を合わせた。
銀時はぼりぼりと頭を掻く。
ヘタな言い訳は誤解の元だ。墓穴も掘る。
「・・・で、何で俺探してたの?助けてくれんの?でもお前に借り作んのヤダから」
「勿論貸し作る為に決まってんだろうが。付いて来りゃ真撰組にゃ見つからねーよ。どうする?そっちの兄ちゃんは逃げる必要あんのか?来るなら目隠ししてもらうけどな」
沖田は唇をきつく結んで高杉を見た。
「俺ァ、ご免ですぜ」
「―――知ってるか?煉獄関は潰れたが、似たようなのがまた出来てんだよ。元を潰さなきゃ何度でも這い出てくる。蛆虫みてぇになぁ」
沖田は目を瞠り、まじまじと高杉を見つめる。
「・・・アンタと手を結ぶ気は更々ねェ。例え同じ考え持っていようがな。それとも真撰組崩すなら俺から、とでも思ったかィ?とんだ見込み違いだな」
「―――らしぃなぁ」
高杉は言って、ぎろりと沖田を睨んだ。その様子に、銀時は思わず刀に手を掛けた。
「捻ってやりてぇが、時間切れだ」
高杉は突然走り出し、何時の間に其処にあったのか、男が梶を取っている一艘の船に飛び乗った。
「来るか?」
振り向いた高杉は銀時を見た。一瞬迷い、銀時は諦めたように息を吐き出した。
「止めとくわ」
靴音が四方から近付いてくる。軽く十人以上はいるだろう。
「何が見つからねぇ、だよ。しっかり尾けられてるじゃねーか」
溜息を吐いて、銀時は沖田を見た。もう二人だけの時間は終わりだ。
「もっとヤりたかったなぁ・・・」
名残惜しそうに呟くと、沖田は困ったような顔をした。
「どっちにしろ、逃げ切れねェよ」
「刑務所ってパフェ出る?」
「俺が差し入れてやるよ」
土方の顔を認めた銀時は沖田の肩を抱き寄せた。離したくないと切に思う。
「・・・・高杉追って来たら手前か。もう弁解の余地はねぇな」
肩で息をしながら二人を見た土方の目は笑っていない。額に薄っすらと汗が乗っているのを見て、彼がどれだけ必死に自分を、否、沖田を捜していたのかを知る。
「土方さん、旦那はシロですぜィ。俺が説明しまさァ」
「黙れ。お前も同罪だ」
土方は沖田の腕を引っ張り銀時から引き離した。自分のスカーフを取り、汚れた沖田の顔をごしごしと拭く。そして破れた服が見えないように上着の前をぴっちりと合わせた。
「連れて行け」
部下に命令して、土方はさっさと先に歩いて行く。沖田は少し躊躇った後、その後を追った。
両腕を真撰組隊士にしっかりと拘束されたまま、銀時は二人に従うしかなかった。









「話は大体総悟から聞いた」
土方は言って、口から煙を吐き出した。
取調室で、早速銀時は土方と二人だけになった。
「じゃ、帰っていい?」
「公務執行妨害罪。店の名前も吐いたし、総悟の言う事信じるならあの日の黙秘はぎりぎり罪にゃならねぇな。」
「大した事ねーじゃん」
ほっと息を吐き出す銀時の前で、土方は何やら考え込んでいる。
「・・・どうやったら手前を縛り首にできんだろうな・・・」
何やら不穏な考えを起こしているようだ。
「なあ、帰らせろよ。訴えるぞ、コラ」
「信じるとは言ってねぇ。攘夷に加担してるっつー証拠はねぇが、してねぇっつー証拠もねぇんだよ。ぶっちゃけ、手前はそんな面倒に手ぇだすたぁ思えねぇが、何で高杉庇ったり逃がしたりしたんだ?」
「庇っても逃がしてもいねーよ!しつけーよ!俺が警察だったら捕まえるってぇ話だよ。金くれたら捕まえてやるし、情報もくれてやるよ」
「だろうな。手前の考えはそんなモンだと思ってたよ」
土方は煙草を灰皿に押し付け、銀時を見た。
「じゃ、今日のあれは総悟と二人になる為か」
「そだね。何時もだったらあんな必死に逃げたりしねーな、俺」
「・・・何で、あいつなんだ?」
ぎり、と歯軋りの音が聞こえる気がした。沖田の話になった途端、土方の目付きが変わった。
それはこっちこそ聞きたい。何故あいつで、どうしてお前なのか。
「どうだ?総悟は良かったか?」
銀時は口の端を僅かに上げて見せた。
「まぁね」
「強姦罪だな」
「んなワケねーじゃん。ちゃーんと合意の上だ。分かってんだろ?お前も」
銀時が否定の言葉を吐くと、土方はぴくりと眉を上げた。
「―――何をだ」
「あいつの気持ちだよ。あれは待ってたね、こうなるの」
ばかが、と土方は呟いた。
「合意であそこまで酷い状態になるかよ。襲ったんだろうが」
自分で吐いた言葉に傷ついたように土方は目を伏せた。
「お前も俺も・・・、馬鹿だ」
後悔するのは勝手だが、一緒にするなと銀時は思う。
俺は違う。
銀時は立ち上がった。
「帰るぞ」
「ああ。二度とその面見せるな。総悟に会うなよ」
「冗談だろ」
鼻で笑うと、銀時は扉を開けた。
外で沖田が、待っていたように椅子から立ち上がった。
「出れたんですかィ?ほらな、土方さんはアンタに甘いだろう?」
「甘いなぁ、マジで。食えねぇけどな」
本当に甘い。立場を利用すれば銀時などどうにだって出来る筈だ。こうして沖田に会うことも許すあの男は本当に志士達に恐れられる真撰組副長なのだろうか。
早速手を伸ばそうとした時、後ろの扉が開いた。
「何してんだ、さっさと出て行け」
「うるせー」
銀時は沖田の手を取り歩き出す。が、その手は銀時に付いては来なかった。
「・・・あれ?ほら、屯所帰るんだろ?其処まで付いて行ってやるって」
「俺はアンタとはいかねェよ」
聞き間違いかと銀時は自分の耳を疑った。
「サヨナラだ。旦那、結構楽しかったぜィ」
「―――は?」
銀時は、はっと土方を見た。
「手前、こいつに何吹き込んだよ?無罪放免の代わりじゃねーだろーな!?」
「めずらしく察しがいいじゃねぇか。俺が簡単に諦めると思ったのか?」
「―――汚なっ!」
沖田を見ると、彼は特に辛そうにも見えない。急に不安が銀時を襲った。
「お前、俺に会えなくなってもいいのか?」
「だって、それで旦那助かるんですぜ?秤に掛けるこっちゃねェや。こんな条件だすなんてこの人もおかしいけど、随分甘い采配だと思いやせんか?」
あっけらかんと笑顔を見せる沖田に、銀時の心は急激に冷えていく。
「甘くねーよ!そうだ、こいつはそういうヤツだった」
土方の言葉を信じた自分が馬鹿だった。
そして、全て手に入れたと思った自分の浅はかさにも怒りが込み上げる。銀時は沖田の胸倉を掴んだ。
「お前が好きなのは俺だ!言えよ、好きだろ!?俺に会わないで、また土方と寝るつもりじゃねーだろーな!?」
「・・・・そりゃ、土方さんに言ってくだせェ。俺はそんなのどうだっていいんだ」
「―――分かったか?」
顔を上げると、土方が笑っていた。
「二人共、馬鹿だろう?」





















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はひゅ〜。シリアス疲れる〜。途中で何度も“マヨネーズ”とか書きたくなって苦労しました。マズイかな、と思って消しましたけど(←書いたんか!)
もう真面目なの書かない〜。向いてない〜。馬鹿だし〜。エロ入れたら途端にキャラ動かなくなったし〜。
これは、ちびちびと地下で更新していきます。


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