激情 参





「どうでもいいなんて事、ねーだろ?」
銀時は呆然と、見つめ返す黒目がちの大きな瞳を見つめた。
「しつけぇぞ、坂田。こいつはこういうヤツなんだよ」
「手前にゃ聞いてねーよ」
銀時は口を挟む土方を睨んだ。
そんな銀時に、沖田は静かに声を掛けた。
「・・・俺ァ、アンタ等の考えてる事の方がわかんねェ。今俺が欲しいのは高杉の首だよ。捕らせてくれるってんなら何でもしてやるよ」
卑怯だ。
こんな時にその目をするのか。
他の事など視界に入らないほど、何がそんなに憎いのか。そんなのは正義の真似をしただけの偽善だ。
銀時は堪らず、沖田の両腕を掴んで引き寄せた。
「―――な・・・っ!」
驚いている沖田の唇を塞いだ。
何も考えられなくしてやる。先刻のように、自分の事だけで一杯にしてやる。
荒れ狂う気持ちを静めたのは、土方の声だった。
「頭冷やせ、馬鹿が」
銀時ははっと我に帰り、沖田を放した。
「・・・こいつに熱くなってもいい事ねぇ。俺が保証する」
「経験者は語るってやつ?・・・いらねーよ」
銀時は重い息を吐き出し、二人に背を向けた。もう語る言葉さえ見つからない。
警察の門を出る銀時の背を見届けて、土方は沖田を見た。
「―――分かってるんだろうな」
低い声に、沖田はびくりと肩を揺らした。
「もう、俺の事ァ放っといてくだせェ・・・」
小さな懇願は土方には聞き届けられなかった。
長い夜は未だ終わらない。









「どうやってヤツはお前を抱いたんだ?」
「・・・・・・・」
沖田は歯を食いしばって屈辱に耐えるのに必死だ。
「―――ああ、お前にとっちゃどうでもいい事だったな」
黙って首を振る沖田に、土方は愛撫の手を休めようとしない。
「―――も、やだ・・・」
沖田は両手を頭の上で縛られ、目隠しをされた状態で頼りなく声を出した。
視界を塞がれた状態では、与えられる感触がいつもよりリアルに感じられ、恐怖すら覚える。
「アイツにもそう言ったのか?」
股間を弄っていた手が不意に離れ、沖田は次に何をされるかと身構える。
反射的に閉じた両足を再び土方の手によって強引に開かれた。
「――――っ」
いきなり内部に指を突っ込まれ、沖田は声にならない叫びを上げた。
「お前は言い寄られたら誰にでもこうやって足開くんだろうが」
「・・・ちが・・・」
「違わねぇよ」
土方は荒々しく入れた指を掻き回す。沖田はイヤイヤをするように首を振った。
「ヤじゃねぇだろ、イイんだろう?」
吸い付くように指に纏わりつく沖田の内壁は、初めこそ侵入を拒むが直ぐに熱くなり、異物を受け入れる。
萎えたままの沖田自身を掴み、強弱を付けて扱くとそれは次第に硬く形を変えていった。
すっかり男同士の関係にも反応する身体になっている。
そうしたのは自分なのに、土方は何故かやるせない気持ちになった。
指の代わりに自分自身を押し入れ、限界に近づいている手の中のものの根元を強く握った。
簡単に快楽など与えない。
「――――ん・・・、」
もどかしげに腰を揺らす素振りに煽られ、憤る。
どうしたいのか自分でも分からないまま激しく突いて、自分の欲望を沖田の中に吐き出した。
沖田は荒い息遣いで土方の肩を掴んだ。そうしていると人間も発情した動物と大差ない、などと土方は冷静に思う。
けれど、本能があるからこそ沖田はこんな姿を曝すのだ。隠しようがないそれを攻める自分は人でなしか。
「―――土方さん・・・っ」
切羽詰った声で呼ばれてぞくりとする。
こんな事をして何の意味があるのか。欲しいものは手に入らない。
ただ、快楽を貪る沖田を見ると自分の欲求がほんの少し治まる気がした。
愛しいのか憎いのか、自分では判断すら付かない。
目隠しを外してやると、濡れた瞳が土方を見つめ返してきた。
―――お前は、どうしたい?
問い掛け叶えてやりたいと思う反面、否定される恐怖が土方を襲う。その時の自分の暴走を止めることが出来ない。
もう、嫌というほど味わった。
ここまで追い詰めた後は唇を重ね、到達へと導いてやるだけ。恍惚として必死に自分に縋りつくその姿に、この場の土方の欲求は満たされる。
直ぐにまた激しい飢えはやってくるのだが・・・。








あれから沖田は内勤ばかりの日々を過ごしていた。
外で何が起ころうと、土方は沖田を外に出そうとしない。
何度考えても沖田には土方の心が分からなかった。ただ、使えない、役に立たない己の不甲斐なさを呪う毎日。
情というものは、こんなにも人を愚かにするものなのだろうか。あんな土方は知らない。変えたのはおそらく・・・、自分。
己の存在価値など使い捨ての駒で充分だ。その為の働きになら過分に応えられる。
それを大事に囲って隠して、それでは存在の意味すらないのではないかと思う。
いい加減代筆にも飽きてきた沖田は筆を置くと、ごろりと寝転んだ。
もう幾日も銀時と顔を合わせていない。こんな生活では当たり前だが、ようやく馬鹿な考えを改めてくれたのかとほっとする。
後は一刻も早く土方が怒りを解いて自分を元の位置に戻してくれる事を願う。
こうしている間にも不穏な策略がどこかで動いているかもしれない。また、誰かが死ぬかもしれない。
それは正義ではない。自己満足だと自分で理解している。ただ剣を振るいたいだけかもしれない。
初めて見た高杉の顔が頭を過ぎった。
戦ってみたい。身体が震えるほどにそう思う。
その思考は間違いなく子供じみた闘争心だ。
初めは銀時にも同じ事を思ったが、剣を交えなくても答えは直ぐに分かった。自分は彼には敵わないと。
このまま一生会えなくてもいいと、そう思った筈だったが、不意に不可解な焦燥感が沖田を襲った。
じりじりと胸が焦げ付くようなもどかしい感情。
銀時に求められるのは不快ではなかった。ただ、あの行為に抵抗があるだけ。
―――また、今夜も・・・
今夜も土方はこの部屋へ来るのだろう。
どうすれば元の彼に戻ってくれるのか。考えて、必死に説得しているつもりなのに逆効果なのだ。落とされ、思考を奪われるのは何時も自分。
逃げ出したいと思うけれど、あんなのは土方ではない。このまま逃げることも出来ない。
考えながら、沖田はいつしか眠りに落ちていた。


息苦しさに目覚めると、身体の上に土方が圧し掛かっていた。
「何してんだ、アンタ!」
驚いて声を上げた口を土方は自分のそれで塞いでくる。
煙草の匂いがきつくて、目の前がくらりと歪んだ。
「仕事中に寝てんじゃねぇよ。襲われても文句言えねぇな」
「こんな事すんのアンタだけだよ!」
沖田は土方の身体を押し退けた。
一気に汗が吹き出してくる。
「―――まだ、駄目かィ?まだ・・・、外に出してもらえないんで?」
「まだだな」
冷たく言う土方に、沖田は溜息を吐いた。
「腐って死んじまう。・・・土方さん、外はどんな様子になってんだ?」
「お前は知らなくていい」
「もう、旦那にゃ会わねェって言ってんのに・・・。二度と一人で勝手に動いたりしねェって・・・」
叱られた子供のように沖田は項垂れた。
以前ならふざけても、土方はこんな風に頑なに背を向けたりはしなかった。
「・・・ごめんな、土方さん・・・」
沖田は初めて謝罪の言葉を口にした。土方の肩が揺れる。
「どうして、謝る?」
「その理由が分かんねぇのが多分悪いんだと思うんだ。でも、土方さんが変わったのは間違いなく俺のせいだろ?」
「・・・・・・」
土方は沖田から目を逸らした。
謝らなくてはならないのは恐らく自分だ。沖田は何も変わっていない。何も知らない彼を、欲しいあまり無理矢理暴いた。
けれど、この激しい感情は治まらない。ない物強請りの子供のようなこの感情。
彼に何を望んでいるのか、それは土方にも分からない。
ただ、他の誰かを見る事だけは許せない。
「俺は、変わったか?」
「・・・今の土方さんは真撰組よりも俺の方が・・・、大事みてェだ」
「変か?」
沖田は頷いた。
「アンタの目にはもっと大きいモンが映ってた筈だ」
「―――――」
土方は言葉を無くして沖田を見つめた。
「目を覚ますのは、俺か」
けれど、分かっていても気付いても抱き寄せたい衝動は抑えられない。
離れていくのを見る位ならこの手で殺してやりたいと思う。全てあの男のせいだった。
もう分かっていた。坂田銀時の言う通りだ。
沖田の心は既にあの男にある。
それをどうしても認められないで足掻いているだけの自分は滑稽だ。
抱き締めるほど沖田の心が冷めていくのも分かっている。
「総悟、お前が此処にいると誓うなら元に戻ってやる」
「・・・俺ァ、真撰組から離れたりしねェよ・・・」
「違う。俺の傍に、だ」
「―――誓うよ」
意味のない誓いだ。
情けなさに涙が出そうだと、土方は思った。



















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・・・これは・・・、私の中で銀沖フィーバーしてますな・・・。
3Zも銀沖濃いしね・・・。
しかし、この土沖は知らん内にピスメの土沖に脳内変換されて、途中でわけわかんなくなりながら書いてました。