激情 四
久し振りに見掛けた沖田は以前よりも細く、消え入りそうに見えた。
封印した筈の感情がざわりと、動き出すのが分かった。
「ようやく外に出してもらえたの?」
街中で声を掛けた銀時の姿を見ると、沖田は以前のように笑った。まるで、何事もなかったかのように。
気のせいではなく、胸が痛んだ。
「久し振りですねィ、旦那。元気そうで良かった」
「・・・お前は何やつれてんの?」
「・・・参ったなァ」
苦笑を浮かべる沖田に、銀時は拳を握り締めた。
――――アイツに何をされた?何日も姿を見せない間、何があった?
未練がましく数日は町で真撰組を探した。屯所の周りをうろついてもみた。
もう止めようと決めたのは自分の心を守るためだった。傷付くのを恐れたのだ。
「でもまァ、ようやく土方さんも落ち着いたし、これで元に戻るってもんでさァ」
早口に言い、沖田は直ぐに銀時から離れようとした。その腕を掴む。
戻るわけなどない。
「何で目ぇ逸らしてんの?仕方ねぇだろ、江戸にいる限り俺には会うんだし」
「・・・離せよ。実は喋んのもマズいんだ」
「馬鹿馬鹿しい。何に操立ててんの?くだらねぇ約束だろ?」
「―――誓いだ」
思い詰めた沖田の瞳に、銀時は足元がぐらりと歪むような感覚を覚えた。
銀時が逃げている間に沖田の身に起きた事。容易く想像出来る。
動いても動かなくてもこうして傷付くのだ。銀時は自分の不甲斐なさを呪いたくなった。
その時、隊服に身を包んだ男が姿を見せた。
「沖田さん、時間です」
ご丁寧に見張りまで付けられているらしい。
沖田はじゃあ、と軽く手を上げると黒服の中へと紛れ込んだ。
銀時は拳を握り締めた。
「坂田銀時が消えた」
「―――え?」
沖田は驚いて土方の顔を見つめた。
「消えたってどういう事でィ?ついこの間まで・・・」
「ああ、町に出ると嫌ってほどアイツの顔見たがぱったりと姿を消した。それで、これだ」
土方は沖田の前に一枚の写真を放った。
大勢の厳めしい顔をした男達の間に目立つ銀髪の男が写っている。
男達は格好などから、攘夷志士であると判断できた。
「―――まさか」
沖田は笑った。だが、その笑いは引き攣ったものとなった筈だ。
「そのまさかだよ。場所は京だ」
「・・・それで・・・、土方さんは何考えてんだ?本気でこんな写真一枚信じてんじゃねェよな?」
土方は沖田の前に数枚の写真を叩き付けるように置いた。
それには武装した銀時の姿、よりによって高杉と一緒に写っているものまである。
沖田は声を出せず、無言でそれを見つめた。
「やっと本性表しやがったぜ。とっ捕まえるにゃ充分だ」
「何かの間違いだ!旦那は攘夷なんて思想持っちゃいねぇ!」
「間違いかもしれねぇな。だが、事実俺達はアイツを追う事になる」
土方は誓った夜から沖田に触れてくる事はなかった。
叫ぶように銀時を庇う台詞を吐く沖田を見つめている。まるで全てを予感していたようにその瞳は静かで、沖田は胸騒ぎを感じた。
「仲間にはなれない。だったらこうした方が確実にお前と関わっていられるな」
「――――馬鹿な・・・・!」
沖田は拳を机に叩きつけた。
馬鹿だ。理由がそんなものであるなら尚更だ。
「斬れるか?出来ねぇならお前は外す」
沖田は顔を上げた。
庇う余地はもうない。信じられなくても事実なのだ。
「・・・誰に言ってんでィ?アンタに旦那は斬れねぇよ」
俺がやるしかねぇだろ?そう言う沖田から、土方は目を逸らした。
沖田の目が敵を見つけた時のそれに変わっている。土方はそれを今、初めて痛ましいと思っていた。
江戸にはない華やかさが京にはあった。
真撰組が突如乗り込んで来た事に、この町はにわかに騒がしくなった。
局長を江戸に残し、極少数で土方達は京へとやって来た。予め監察によって状況は把握できている。
土方は何よりも優先して坂田銀時の探索を始めた。
一刻も早く断ち切りたいと思っていた。自分からも沖田からも、あの存在を消し去ってしまいたいと。
「何焦ってんでィ?らしくねぇなァ。そんなこっちゃ躓きますぜィ?」
そんな土方を見て沖田は笑った。
何故、と問い掛けたくなるのを堪える。
何故そんな風に笑えるのか。あの男を特別に想っていたのではないのか。
そして、わだかまりの欠片もなく土方を見る事の出来るその理由は何か。
言葉の代わりに息を吐き出し、土方は腰を下ろした。
その時襖の向こうから呼びかける声が聞こえた。
「副長」
入れ、と短く返事をすると音もなく襖が開き、監察が部屋へと入って来た。
「奴等今週末にも江戸へ発つようです。最終の打ち合わせが今夜あるようです」
土方は口元に笑みを浮かべた。
「坂田は来るのか?」
「近頃の主要な会合には全て出席していますので、おそらくは・・・」
「・・・江戸には行かせねぇよ」
土方は立ち上がり、沖田を見た。
見つめてくるその瞳からは感情を読み取る事は出来ない。
掠める罪悪感を振り払う様に土方は号令を掛けた。
続
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すみません、気力が萎え始めました・・・。短くてごめんなさい・・・。エロもなくてごめんなさい・・・。
そろそろこのウザイ話も終わる予定です・・・。書き切れるかは・・・・・・・・・・・・・・・(無言でこっそり退場)