さあ、始めましょうや 前編
こんなのは、違う。
腕の中で息を乱す沖田を見つめて土方は思った。
どんなに面影が似ていても、別人なのだ。
好きだった。
愛していた。
誰よりも幸せであって欲しいと願う反面、無理矢理にでも自分の物にして辛さをも分かち合えたら、との想いは消えなかった。
最期まで伝える事のなかった想い。
――――その相手は、もうこの世にいない――――
その日、城の警備で駆り出された真撰組は、広い敷地内をそれぞれ単独でパトロールしていた。
城では華やかに饗宴が催されている。その喧騒が城外の警備をする土方達の耳にも僅かに届いていた。
長い堀は延々と城を取り囲み、鬱蒼と茂った木々が陰気に取り囲む。
広い警備範囲を、各自無線で連絡を取り合う手筈になっていた。
土方は夜まで続く予定の宴にうんざりとしながら、傾きかけた太陽を見上げる。
名ばかりの警備で、実際、仕事らしい仕事はしていない。
こんな風に一人で静かな時間を過ごすのは久し振りだと気付いた。
失ったものの大きさは日が経つにつれ重く圧し掛かってくる。
忙しさに紛れて忘れようとしたそれが、こんな時にふと思い出されてならない。
それは、酷く辛いものだった。
土方は大きく溜息を吐き出した。
その時、ふと気配に気付いて振り向くと、沖田が立っていた。
黙ったまま、じっと土方を見つめてくる。
「・・・総悟、お前の警備区域は向こうだろ。何してんだ」
平常を装って土方は口を開いたが、それが何時もの自分ではない事にとっくに気付いていた。
ミツバがいなくなってから、二人の関係は変化していた。
より冷たく、無機質に。
互いに視線も合わさず、口から出るのは素っ気無い言葉だけ。
他にどんな態度を取っていいのか判らなかったからだ。
沖田がどれだけミツバに懐いていたか知っていた。
彼女を失って、どれほど傷付いているか知っていた。
孤独の闇の深さも。
それは、土方も同じだったから。
責めるような沖田の目が、ミツバのそれと重なる。
結局ろくな会話も出来ぬまま逝ってしまった彼女が自分を憎んでいるように思えて仕方がない。
以前の様に沖田が容赦なく、言葉で態度で責めてくれればまだ楽だった。
今となってはそれさえもない。
無言の責めは何よりも辛かった。
「何してんだ、さっさと行け」
沖田の視線に絶えられず、土方は顔を背けると自分からその場を逃げ出そうとした。
「分かりました。―――十四郎さん」
思わず振り返ると、沖田が嘲笑っていた。
「一人で忘れた振りなんて、ずるいんじゃねぇですかィ?」
「・・・・・・」
土方は舌打ちした。
沖田は二人になる機会を待っていたようだ。
この時を狙っていたかのように、その視線は冷たく土方を射抜き、言葉は傷口を抉るように発される。
「黙って待ってる女だったから、あんたは楽だったよなァ」
その言葉に、かぁっと体が熱くなる。
「――――だから・・・っ」
忘れられねぇんじゃねぇか。
その言葉が出てこない。
頭に上った血が、目の前を朱に染める。
ずっと押さえていた感情が一気に吹き出し、これが怒りなのか悲しみなのか自分では判断さえ出来なかった。
「逃げるなんて、忘れるなんて許さねェ。姉上の苦しみはこんなもんじゃねェんだ」
「――――――」
土方は沖田を見据えた。
憎い。
この顔が、声が、憎い。
他に、この感情の持って行き場がなかった。
沖田もそれを望んでいるようだった。ぶつける場所がもう、互いしかないのだ。
「上等じゃねぇか」
ニヤリと、口元を歪めて土方は笑った。
大股で歩いて沖田に近付く。彼は微動だにもしないで土方を見つめていた。
「どう、忘れさせねぇんだ!?」
襟元を力任せに捻り上げた。
「―――ずっと・・・、ずっと見続けてやりまさァ・・・」
不利な形勢で見上げる沖田の目と言葉に、瞬間土方は怯んだ。
殴られるよりも、貶されるよりも、それは確かに最も効果がある方法に思える。
けれど、そんなものに怯えるわけにはいかない。
追い詰めるのは自分だと言い聞かせ、土方は口を開いた。
「小せぇよ」
そのまま襟元を引き寄せて、沖田に口付けた。
「っ!?」
びくりと強張る身体を押さえ付ける。
「ん――――っ」
暴れ出した沖田の身体を草叢に押し倒し、角度を変えてその唇を貪った。
押さえ付けた身体が力を無くすまで、彼が呼吸を失うほどの口付けを続けた。
激しく抵抗していた腕がだらりと草に落ち、地面を蹴る足も動かなくなって、ようやく土方は唇を離した。
「・・・、身代わり、なんて・・・、ごめんですぜ・・・」
荒い息の下、沖田は途切れ途切れにそう言った。
身代わり?
土方は小さく笑った。
そんなものになれる筈がない。
お前など。
「そうだなぁ、何しても本物じゃねぇしな」
見下ろしてそう言い放つと、沖田は目を見開いた。その傷付いた表情は、土方の心を揺さ振った。
より残虐に。もっと、もっと傷付いた顔が見たいと、そんな欲求が湧き上がる。
「―――うぁっ」
股間を強く握ってやると、沖田は悲鳴を上げた。
「キスだけで感じたのか?」
手の中のそこは、固く形を変えている。
「――――ちが・・・っ」
再び、土方を押し返す沖田の手に力が篭る。
土方ももう一度その唇を塞いだ。互いの邪魔な刀を引き抜き、遠くに放り投げた。
ベルトに手を掛けると、沖田の目に涙が浮かんだ。
「ん―――――っ!」
ばたばたと動く足を体重を掛けて押さえ込み、今度は唇の代わりに指を数本、その口に押し込んだ。
くぐもった声すら洩らす事が出来ず、沖田は背を反らせてもがいた。
その隙に一気にベルトを引き抜くと、彼の下半身を剥き出しにした。
「このくらい、覚悟してたんだろ?」
耳元でそう囁き、土方は沖田の唾液で濡れた指を彼の足の間に突き刺した。
悲鳴はやはり、土方の唇に塞がれ、掻き消える。
異物を受け入れた事など初めてであろうそこは、きつく差し入れた指を締め付けてくる。
ぞくりと、土方の身体が震えた。
自身の欲望が熱く湧き上がってくる。
指の出入りが円滑になったのを見計らい、土方は徐に自分の熱く、固くなったものを取り出した。
沖田は既に何が起きているのかも解らない状態で、固く目を瞑り、荒い息を繰り返している。
「見てるんだろ?しっかり目を開けてろ」
言って、土方は己自身を沖田の内部に差し入れた。
「――――ああああっ・・・!」
半狂乱の状態で、沖田は頭を左右に振り悲鳴を上げた。
構っている余裕はなかった。時間も、自分にも。
一方的に腰を動かし、土方は自分の欲求だけ満たすと、あっさりと沖田から身体を離した。
「終わったぞ。さっさと服着ろ」
「・・・・・っ」
倒れたまま視線だけを土方に向け、沖田はその目に力を込めた。
まるで、視線だけで殺そうとしているようだった。
“殺せよ”
土方はそう思った。
いっそこのまま、二人でいなくなってしまおうか。
そう思い、沖田を見つめ返した。
彼女の面影が映る瞳が憎くて憎くて、――――愛しかった。
後編
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うわぁ。真っ黒黒助だぁ〜。
甘くなる予定だったのに(どこが!!)