弐







「・・・来ると思っていたよ」
伊東は文机に向かい、手元の文書から目を離さずに言った。
日付が変わる時刻、静かに伊東の私室に入って来た沖田は襖の前で黙って立っていた。
「それで・・・、答えは出たのかな?」
少しの沈黙の後、沖田は口を開いた。
「土方さんには言わねぇよ」
どうとでも取れる科白だが、予想通りだった。
少しでもこちら側に足を踏み入れたのなら、もう逃がさない。裏切りなど出来ない様に。
「解った。では、服を脱ぎなさい」
言って、沖田を見上げると、彼は厳しい表情で伊東を見つめていた。
「・・・僕は、花も人間も美しいものが好きでね。悪いが君には望み相応の代価は払ってもらうよ。嫌ならば出て行けばいい」
淡々と告げた後、伊東は再び文机に目を落とした。
しばらくして、沖田が着物を脱ぐ衣擦れの音が、静かな室内に響いた。思わず伊東の口元に笑みが浮かぶ。
庭で香る花が部屋の中にまで、その存在を誇示するかのように匂いを届かせている。
伊東は書類をまとめると、布団の横に座る沖田に視線を移した。
立ち上がり、その傍に近寄っても、彼は微動だにしない。
「そんなに緊張しなくてもいい。君が僕の信用に応えてくれさえすれば悪いようにはしないよ」
伊東は沖田の肩に手を掛け力を込めると、ゆっくりと布団の上にその身体を横たえた。
白い肌に掌を這わせ沖田の反応を見るが、彼は視線を逸らせたままだ。
犬にでも噛まれたと思って。
ほんの少し我慢するだけで望みが手に入る。
恐らく沖田はそんな風に思っているのだ。
―――――いいだろう。
伊東は心の中で笑った。
土方の腹心である沖田がこちらに付けばそれでいい。今はその事実だけがあればいいのだ。
「・・・足を、開きなさい」
「・・・・・・」
沖田の眉間に皺が寄る。
求めるのは快楽などではなく、従順だ。
「足を開け」
繰り返すと、沖田は瞼を閉じて伊東の言葉に従った。
征服した快感に酔いしれる。
余すところなく、全てを曝け出した沖田の蕾に触れた。
流石にこのままでは繋がるのは困難だろう。
伊東はそこに指を差し入れ、二、三度内部を掻き回した。
微かな呻き声が沖田の口から洩れる。
己の方は既に欲望を吐き出す準備は出来ている。その事に自分で苦笑する。
固く閉じたままの入り口を眺めると、強引にそこを暴いてやりたいという欲求が湧き出した。
「・・・もっとだよ、沖田君」
言いながら沖田の膝を大きく開き、伊東は固く猛った自分自身を突き刺した。
「――――――い、・・・っ」
限界まで押し広げられた秘部は引き攣れる。沖田は小さな悲鳴を上げ、その顔は苦しそうに歪んだ。
「く・・・、」
思った以上に侵入するのは難しく、伊東は慎重に腰を進めた。
最奥まで押し入るのに時間が掛かったが、ようやく根元まで沖田の中に埋まった。
伊東の額にも汗が浮かんでいた。
「・・・君の真価は、僕の傍でこそ発揮されるものだと思っているよ。」
沖田の髪を撫で、伊東は優しい声でそう言うと、到達に向けて腰を動かした。






「明日もおいで」
そう言った伊東を、沖田は信じられない、という表情で見返した。
その顔を思い出す度、嗜虐心が頭を擡げる。
あれから一週間余り。毎晩、伊東は沖田を抱いていた。
ただ繋がり、一方的に欲を吐き出して終わりの行為。
だが、それでも沖田の身体は少しずつそれに慣れて来ていた。異物を受け入れる度、裂けて血を流したそこは最初よりも安易に伊東を受け入れるようになった。
「――――しかし、土方君にもがっかりだね」
沖田を四つん這いにさせ、後ろから貫きながら、伊東は呟いた。
いかにこの関係を最も残酷な方法で彼に伝えようか目論んでいた。が、当の土方は何があったのか、自ら士道不覚悟な真似ばかりを繰り返し、切腹にまで追い込まれようとしていた。
尤も、追い込んだのは伊東だったが。
「・・・妖刀、の、呪い・・・」
荒い息の下、沖田が言った言葉に伊東は動きを止めた。
「呪い?何の事だ?」
自身を引き抜き、伊東は沖田の顎を掴んだ。
「・・・土方さんの刀、あれが原因なんでさァ」
「何だと?」
「あれが土方さんの自我を奪い、操ってたんだよ」
伊東は沖田を見つめた。
「何故それを君が知ってる?」
「・・・土方さんから、聞いた」
「――――そうか」
伊東は口元を歪めると、沖田に口付けた。
「――――ん・・・っ」
「残念だが沖田君、そうなると土方君は自滅の一途だ。僕達がわざわざ手を下す必要はない」
伊東の言葉に、沖田は僅かに頷いた。
「教えてくれた君を信じよう。ご褒美をあげようか」
言って、今度は深く唇を合わせ、舌を差し入れる。
沖田は慌てて顔を背け、それを逃れようとした。
その身体を押さえ込み、伊東は沖田の股間に手を伸ばした。
「―――――や・・・っ!」
突然抵抗を始めた沖田に、伊東は少々面食らう。
どうやら、彼も快楽を望んではいないようだ。
暴れる身体を大人しくさせる為に、伊東は彼自身に絡めた指に力を込め、敏感な部分に吸い付いた。
「・・・や、めろ・・・」
ただ一方的に傷め付けられるのとは訳が違う。快感に酔う事は彼の誇りを傷付けるのだろう。
けれど、その抵抗は伊東の誇りを傷つけた。
虐げられるよりも、愛しく抱かれる方が嫌だと言うのだ。
―――――それほど、自分は彼の愛情の対象になってはいないという事だ。
我を失ったように、伊東は沖田を責めた。
彼の息が上がる部分を見つけては執拗に愛撫し、形を変えた彼自身から白い欲望が迸ってもまだ、離さなかった。二度、三度と限界に追い詰めると、沖田は力尽きたように動かなくなった。
伊東は息を整え、自分の汗を拭った。
・・・まあいい。もう、沖田が帰る場所は此処しかないのだから。
ゆっくりと時間を掛けて心を開かせればいい。
自分に言い聞かせるように、呟いた。
土方は問題外。後は近藤を葬るだけ。
伊東はそっと沖田を抱き締めた。
「僕は、君を信じるよ。隊士募集の遠征に、君の同行を認めよう」
ぴくりと動いた沖田は、薄く目を開けて伊東を見た。


その時も、まだ伊東は気が付いていなかった。
沖田の本当の望みを――――――


















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さて、続きはどうなるでしょう?まだ何にも考えていません(汗)
つか、今度は何書けばいいのかしら〜?