「おはようございます!!」
朝日が差し込む道場で、清々しい笑顔を向ける男達に沖田は目を細めた。
良く見ると皆、田畑からそのまま来た格好だ。
「・・・・・」
どうしていいか分からず来島を振り返ると、彼女は億劫そうに口を開いた。
「そいつ等の指南をするのがお前の役目ッス。実戦で使える腕にしてやれって」
「――――な・・・」
沖田は震える足で来た道を戻ろうとした。
「待て。何処行くつもりッスか」
「――――出来るかよ!俺ァ、お前等の仲間になるつもりは毛頭ねェ。人形でいた方がマシだ!」
「命令ッス」
「何であんな奴の言う事に従えるんでィ!?お前等揃いも揃って頭おかしいんじゃねぇか!?」
沖田が叫んだ言葉に、その場の空気がびり、と動いた。
「――――まぁ・・・、いいと思うッス。晋助様はお前には怒らないッスよ」
でも、此処にはいた方がいい。
来島が呟いた言葉に、沖田は出て行く足を止めた。
そのまま蹲り、稽古を始める連中を眺めた。
顔にも服にも土のついた男達が自我流に竹刀を振り回す。
「・・・アタシ達がどうして晋助様に従うのかって聞いたな。教えてやろうか?」
無言を返す沖田に構わず、来島は続けた。
「皆、希望がないからッスよ。天人にあやかって景気がいいのは江戸近辺だけ。見ただろう?この辺は今も昔のままだ。芋一つと交換に道端で客取ってたアタシみたいのを救ってくれたのは晋助様なんスよ。ここに集まる皆、似たり寄ったりな境遇ッス。皆、晋助様に希望を持ってる。それがどんな道だろうと、あの方しか光に見えない」
「・・・・・」
同情などしない。
こいつ等がどんな人間だろうと、やっている事は決して許される事ではない。
「・・・少しでも使えるようにならなきゃ、こいつら戦場で死ぬしかないんスよ」
「・・・だったら、高杉が教えりゃいいじゃねぇか」
来島は笑った。
「お前にやる気ってもんを出させようとしてんじゃないッスかねぇ?」
「それこそ・・・、余計な世話でィ・・・」
顔を伏せた沖田は、昼になって皆道場から出て行くまでそのまま座っていた。
「何もしなかったらしいな」
再び夜が来た。
「・・・此処に居るってだけで、俺ァ、真撰組を裏切るつもりはねェ・・・」
酷く疲れた。
蹲る沖田の傍らで高杉が笑ってるのが分かったが、顔を上げる気力さえ湧いてこない。
「真撰組か・・・」
高杉は呟き、煙を吐き出した。
「もう居場所がなくてもか?」
「・・・そんなの、関係ねェ」
このまま眠ってしまいたい。そしてそのまま、朝など来なければいい。
「散々騒がれてたが、もう話題にもされなくなったな。一隊士の裏切りなんざ、そんなもんか。それとも上が揉み消したか」
―――――近藤さん・・・。
脳裏に懐かしい顔が蘇る。もしかしたらそうかもしれない。きっと、あの人達は全力で自分を守ってくれるだろう。そして、今も帰りを待ってくれているだろう。
―――――だから、死ねない。
「死体が上がったって話も聞かねぇしな」
ぴくりと、沖田の肩が反応した。
「マスコミに流したネタも証拠がなきゃ意味ねぇな」
―――――生きている・・・?
沖田は顔を上げた。
笑みを浮かべた高杉の顔が目前に迫った。
「ようやく反応したか」
こんな状態で期待などしたくはない。なのに、心は勝手に希望を探し出している。
いや、考えないようにしていただけで、本当はずっとその期待は胸に持っていた。
そして何故、今その事実を高杉が口にしたのか。
―――――お前にやる気ってもんを出させようとしてんじゃないッスかねぇ?
来島の言葉を思い出し、沖田は首を振った。
「・・・嘘だ。今度は何企んでんだ・・・?」
「信じなくてもいいぜ」
そう言うと、高杉は唇を合わせてきた。
銀時を殺した高杉が憎かった。
何時か、必ずこの手で殺してやりたいと思っていた。
この優しさも、錯覚の筈。
だから、気のせいなのだ。
昼間見た男達や来島のせいだ。
高杉が銀時と被って見えるなど、有り得ない―――――
続
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短いけど。