目を覚まさなくていけない。
夢の中で声を聞いた。
それは己の声だったか。
それとも、銀時の――――――
それは、そうするのに丁度良いタイミングだった。
高杉という男が解らなくなり、自分を見失い掛けていた沖田の目を覚ます機会だった。
「江戸に行くって聞いたっスか?」
高杉のいない時を狙ったかのように、来島がその部屋を訪れた。
昨夜の余韻が残った部屋で、沖田は慌てて起き上がると乱れた着物を正した。
「―――――江戸・・・?」
「大戦らしいっスから。気ぃ抜くと死ぬよ、お前」
戦・・・。
呟いて顔を上げた。
「・・・俺も・・・、行くのかィ?」
来島は鼻で笑うと沖田を見た。
「当たり前っス。お前は大事な人質だから、囮にはもってこいだろ?」
「――――――・・・」
目を瞠る沖田に、来島は目を細めた。
「何?晋助様に大事にされてたの、愛されてるとか勘違いしてたっスか?」
「・・・・・いや・・・」
そこまでは思ってはいない。
ただ、手招きされているような気がしてた。
仲間になどなれる筈がない。なるつもりもない。
そんな事充分解っていたのに。
今の言葉のお陰で、靄のかかった頭がようやく覚めてきた。
薬物を欲しがる身体は思った以上にいう事を利かない。
沖田は立ち上がると着物に手を通した。
「――――何処行くっスか?」
「道場」
力を、そして勘を取り戻さなければいけない。
戦ならば、隙を見て武器を手に入れる事もできるだろう。
江戸に着く前に高杉を殺す。
敵は来島が取ればいい。
例え伝わらなくても。それが真撰組に、銀時に対する誠実の証だ。
「―――――いや、驚きました」
稽古を見ていた武市が感嘆の声を上げた。
「一番隊長の名は伊達じゃなかったんですねぇ」
「馬鹿にしてんのか」
汗を拭いながら、沖田は彼を一瞥して通り過ぎる。
こんなのは序の口だった。
―――――まだまだ、体力は戻っていない。
道場を出た所で高杉が待ち伏せていた。
思わず体が軋む。
「あいつ等、お前の事“鬼”だって言ってたぜ」
「言われ慣れてまさァ」
沖田は吐き捨てるように言って、彼から顔を背けた。
―――――裏切らねぇんじゃなかったのか?
稽古を始めた夜、そう問われた。
「当たり前でィ」
そう答えた沖田に高杉は笑った。
「じゃあ、狙うのはこの首か」
自分の首を撫でながら、さも可笑しそうに言う高杉を沖田は睨み付けた。
「大人しく囮になんてならねぇよ」
「解ってんじゃねぇか」
――――――自分の立場を。
幻想で良かった。
敵を見誤る前に気付けて良かった。
組み敷かれながら、沖田は確認するように高杉を見つめていた。
―――――――敵は高杉。ただ一人。
唇を少し噛み締めた後、沖田は真っ直ぐ顔を上げて高杉を見つめた。
「俺を連れて来た事、後悔すればいい」
「・・・・・」
寄り掛かっていた壁から身体を起し、高杉は無言で沖田に背を向けた。
冷たい風が、二人の間を通り過ぎる。
―――――そして一緒に、地獄へ堕ちよう
続
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捏造小説(汗)に気を長く、そして広いお心でお付き合い頂けて本当に嬉しいです!!
もう少しで終わりの予定でっす!
何時石投げられるかと冷や冷やしてました・・・。(え?これから投げる?)
しかし、今回も短い。