「よりによって、真撰組の沖田でしたか・・・」
武市は深く息を吐き出した。
沖田を捕らえた後、部屋に篭っていた高杉がふらりと隣に並んだ。
「文句があるなら、降りていいぜ」
そんな武市を一瞥し、高杉は煙を吐き出した。
「・・・いえ・・・、岡田よりはマシだと思いますよ。ただ・・・、」
厄介だ。
数日前、突然高杉は「客を迎えに行く」と言って、軍艦を出すように指示を出した。
てっきり天人だと思っていた武市は、相手が真撰組だと知って驚いた。
高杉に従い、一番隊を包囲したのは良かったが、彼の顔を見て再び驚愕した。
高杉の腕の中でぐったりと身体を預けるのは、数ヶ月前高杉が連れて来た青年。
自分の顔を見た一番隊の人間を皆殺しにした事といい、どうやら高杉は本気らしい。本気で、沖田を連れて行くらしい。
軍艦を動かすのにどれだけの費用と人材を費やすと思っているのか。それを、とんぼ返りの形で、こんな私情で動かす高杉を武市は理解出来ない。けれど、従わざるを得ない。
船の上で、遠ざかる江戸の町を見下ろしながら、武市はもう一度溜息を吐き出した。
「・・・沖田と、どういった関係ですか?」
高杉はふと、目を細めた。
「あれは玩具だ。・・・大事な」
「―――――では・・・、彼とはどういった関係ですか?」
「―――――・・・?」
高杉は眉を寄せ、武市を見た。
武市の視線は江戸の町を凝視している。そちらに視線を向け、高杉は目を見開いた。
「・・・銀時・・・」
銀時が一人乗りの艦で此方に向かって来る。
「以前、沖田を連れ戻したのも彼でしたね。銀髪の、侍・・・」
「――――追い返せ。・・・出来ねぇなら、奴を俺の部屋に」
お前等が敵う相手じゃねぇな。
高杉は呟くと、着物の裾を翻して艦の中へと入って行った。








高杉は、一番奥に用意された自室の扉を開けた。
畳の上に敷かれた布団には、高杉がこの部屋を出た時と同じ格好で沖田が眠っていた。
それを横目で見ながら、脱がした衣類を探る。
「―――――発信機か・・・」
高杉は忌々しく呟いた。
刀と、シャツ、ズボンのポケットにまで。
高杉はそれらを刀の柄で叩き壊した。
そして、部屋の隅に置かれた棚から香を取り出し、火を点ける。途端、甘い香りが部屋中に漂った。
「・・・ん・・・、」
沖田が小さく身じろぐ。
「・・・・おい、起きろ」
「・・・・頭、痛ェ・・・。――――何だ、この匂い・・・」
少しだけ頭を上げて、顔を顰めた沖田に、高杉は覆い被さった。
「―――――や、・・・あっ、」
「気持ちよくなるクスリだ」
愉しげにそう言って、沖田の胸に口付ける。
「―――も、やだ・・・!・・・ん、」
押し退けようとした手には力が入らない。
「あぁ・・・・―――」
口付けられた場所から痺れるような快感が全身に広がり、沖田は激しく痙攣した。
「どうだ?いいだろう?」
驚きに見開かれた瞳に、高杉は問い掛ける。
肌を這う指先の感覚に我を失くしそうになり、沖田は激しい恐怖に襲われた。
「―――――や、だ・・・!高、杉・・・っ!」
「・・・いいなぁ、もっと俺の名を呼べよ」
「――――――っ」
「もっと、もっと声を出せ。あいつに、聞こえるように」
―――――あいつ・・・?
沖田が問い掛けるように高杉を見上げた時、部屋の扉が大きく開かれた。





「瞬刹だな。あいつら、少しは手応えあったか?」
扉を開けてこちらを凝視している銀時に、高杉は訊ねた。
「―――――何、してんだ、手前・・・!」
「肩慣らしにもならねぇか」
沖田に覆い被さる体勢からゆっくりと上半身を起こし、高杉は銀時を見つめた。
「離せ・・・!今すぐ離さねぇと・・・・!」
そう言って殴りかかる様に腕を振り上げた銀時は、次の瞬間がくりと膝を崩した。
「―――――・・・あ?」
「・・・良く効くな、新種のヤクらしいが」
銀時はようやく、部屋に満ちた香りに気が付いた。
「初めてじゃ、キツイかもなぁ」
高杉は喉を鳴らして笑った。
「―――――、手前、どこまで汚ぇんだ・・・」
憎々しげに吐き捨て、銀時は沖田を見た。ぼんやりとこちらを見返すその目は、焦点が合っていない。
沖田―――――
「礼を言おうか、銀時。これのお陰で退屈しなくて済みそうだ。昔の事も、忘れてやってもいい」
「・・・馬鹿言うな。そいつは、関係ねぇだろーが」
高杉の指が、沖田の髪をさらりと撫でる。ただそれだけで、沖田は小さな声を上げた。
銀時の心臓が音を立てる。
身体が動くなら間違いなく今この瞬間、高杉を殺している。
「関係有りだろ?今此処で騒いで死ぬか、諦めて大人しく帰るかだ」
「―――――どっちもごめんだね。・・・いいから・・・、そいつを放せ」
ずりずりと這いずって、銀時は沖田に手を伸ばした。
「・・・立場が分かんねぇ奴だな。正義なんて翳せる人間じゃねぇだろ?お前が」
――――そんなんじゃ・・・、ない。
昔も今も、正義など語った事もない。
ただ、大切なものを守りたかっただけだ。
霞む視界の中、銀時は二人を見た。
己の無力さに憤る。
―――――本当は・・・、お前の事も、本当に守りたかった。
沖田に触れる寸前、銀時は意識を手離した。

















*****************
単純な私はやっぱし一日で書いた!
意味通じてるか不安だけど・・・(本当に駄目駄目)