「必ず、行く」
そう言った銀時に高杉が見せた笑み。
その瞳には確かに、希望が宿っていた。

朦朧とする銀時の脳裏に、その時の様が蘇っていた。

天人が地球の侵略を始めてから数ヶ月。
決して地球人に歩があるとはいえない戦況の中、それでも攘夷を訴える志士達は戦い続けていた。
必ず、天人に屈する事などないと信じて。この惑星を守り切れると信じて。
あの日、高杉はその背を銀時に託した。

―――――あの時のお前が、本当のお前だったよな・・・。
銀時は呟いた。

裏切ったのは、銀時。正確には、その仲間。
戦場へ辿り着いた銀時が見たのは、鬼兵隊全てを失い、死体の山の中呆然と座り込む高杉の姿だった。
銀時が間に合わなかっただけではなく、情報を全て掴まれてしまった結果、殲滅されたのはこちらだった。
その後、天人に真っ先に白旗を振った幕府は開国し、地球の為に戦った攘夷志士達はことごとく粛清、その首を晒される事となった。銀時と高杉の師、吉田松陽もその一人だった。
高杉が全てを信じなくなり、全てを壊そうと狂いだしたのは、それからだ。

――――――でも、高杉。
まだ皆生きている。
大事なもんを無くしたけど、まだ、大事なもんは、まだ、残っている。


「―――――あ・・・・、」
甘い声が聞こえた。
沖田が銀時の腕の中でうっとりと目を閉じている。
―――――例えば、こいつ。
銀時は腕に力を込めて、その身体を抱きしめた。
あの時諦めていたら、こいつにも、あいつ等にも出会えなかった。
「旦、那ぁ・・・」
どうすれば良かったかなんて、知っててもどうする事も出来ない場合もある。
気が遠くなるほど悲しんで、後悔して、それでもまた歩き出すしかない。
また、抱き締めたい存在が出来てしまったなら、守ればいい。
もう一度、何度でも抱き締めればいい。がむしゃらに守ればいい。
「旦、那・・・・っ」
「――――・・・?」
抱き締めている筈のその感覚がおかしい事に気付いたのはその時だった。現実味がない。
「お、き・・・た・・・・・」
その名を呼んで、銀時ははっと目を開けた。
目を開けたという事は、今まで自分は目を閉じていたのか。
気付いて唖然とした。
――――では、沖田は・・・。
腕の中に居た筈の沖田は――――
動こうとして、自分の両腕が後ろで拘束されている事に気付く。
視線を巡らせた銀時が見たのは、絡み合う高杉と沖田、二人の姿。
銀時は言葉を失い、その悪夢のような光景を呆然と見つめた。
「いい夢、見れたか?」
「――――夢・・・?」
腕の中で声を上げ、銀時を呼んでいた沖田は、現実では高杉に抱かれていた。
「こいつも、いい夢見てるみてぇだぜ?」
「あぁ・・・っ、旦、那・・・」
高杉の腰が揺れる度、、沖田は銀時を呼ぶ。
ざわりと、自分の中の何かが騒ぐのが解る。
「・・・本気で、殺すぞ」
「最初からそのつもりだろ?いい加減綺麗事は止めろ」
苛々とした口調で言い、高杉は起き上がると羽織っていた着物の前を合わせた。
「もうお前に用はねぇ。どうする?消えるか、死ぬか?」
「―――――・・・」
沖田はまだぼんやりとした瞳で空を見ている。
「・・・手前は何がしてぇんだ?沖田をどうするつもりだ?俺に復讐してーんなら俺だけ狙っとけや、汚ねーんだよ」
高杉は香炉の蓋を閉めて銀時を見た。
「言いたい事はそれだけか?」
そう言って、沖田の刀をすらりと抜く。
「ばーか。言いたい事ぁ、まだまだあんだよ!自分だけ被害者ぶってんじゃねーよ!俺のモンに手ぇ出すんじゃねーよ!!お前はただの馬鹿だ、馬鹿!!」
しばらく銀時を見つめ、高杉は気が付いたように天井を見上げた。
艦の上が俄かに騒がしくなったのだ。
「・・・仲間を呼んだか?」
考えるように黙り込む高杉から視線を外し、銀時は沖田に声を掛けた。
「沖田!!」
びくりと、その身体が反応する。
「あ・・・、旦、那・・・?」
ようやく、その瞳がしっかりと自分を見返す。銀時は息を吐き出した。
「動けるか?」
「あ・・・、ああ・・・」
ゆっくりと身体を起こした沖田は自分の姿を見て青褪めた。
「―――――あ・・・?俺・・・?」
はっきりと、情事の余韻が残る身体。縛られた銀時。自分を見下ろす高杉。
「―――――、まさ、か・・・」
銀時の目の前で?
沖田は愕然とした。
「―――いいから、帰るぞ」
銀時は何でもない事のように言い放ち、沖田に笑い掛けた。
「まだ寝惚けてんのか」
高杉の手の刀が銀時に向けられる。
「二人で帰るなんて選択肢は与えてねぇ」
「止めろ。・・・もう、いい。分かった。俺は此処に残る。だから、旦那を解放してくれ」
「――――何言ってんの!?馬鹿!?お前!?」
抗議の声を上げたのは勿論、銀時だ。
「戻ったって、こいつの影に怯えながら暮らすのはもうごめんなんでィ。こんな思いするくらいなら俺がこの手で息の根止めて、そんで自力で帰ってやるよ。・・・旦那、アンタは何にも悪くなんてねぇんだ。全部忘れて帰ってくれ」
ここまで来てくれて、ありがとな。
呟いた沖田に、銀時は眉を吊り上げた。
「馬鹿だ!お前やっぱ馬鹿だ!誰が忘れるか!!」
その時、足音が部屋に近付いて来た。
扉を叩く音に、高杉は「何だ」と短く返事をする。
「高杉さん、幕府の艦が追ってきますよ」
「――――武市、手前か。コイツを簡単に通しやがったのは」
「だって、敵いませんから。味方を失う前に貴方に何とかしてもらおうと思いまして」
さらりと言う武市に高杉は無言を返す。
「どうします?逃げれる所まで逃げますか?発砲しますか?」
「全速で進め」
言って、二人に視線を戻した高杉は口元を歪めた。
「やっぱり、選択肢は一つだ」



















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地下に置く意味があるのか非常に怪しい。いや、でもやっぱ表には置けない!(汗)
つか、こんなんばっかすね。
精進いたしますわ・・・(項垂れ)