縛られたままの銀時を引き摺るように、高杉は艦の上へと向かった。
右手には沖田の刀が握られている。
「――――高杉!」
沖田は着物を羽織ると、慌てて二人の後を追った。
「旦那をどうするつもりだ!?」
「うるせぇ。黙って見てろ」
銀時の乗って来た船の前に立つと、高杉は「乗れ」と短く銀時に言った。
「・・・・高杉・・・?」
沖田はほっと息を吐き出した。
先程の自分の願いが聞き入れられたと、そう思った。
しかし、銀時は険しい表情のまま高杉を睨みつけている。
その表情は酷く辛そうで、立っているのがやっとの状態に見える。
「・・・いい加減、目ぇ・・・、覚ませよ」
訴えかける銀時の言葉にも、高杉は眉一つ動かさない。
沖田も、身体中に充満した薬のせいで足元が覚束ない状態だった。酷い二日酔いの後の様だ。
が、とにかく銀時を助けるのに必死だった。
「旦那、早く乗ってくだせェ。あっちまで行けばアンタは助かる」
高杉の気が変わらない内に、早く。
そう思った瞬間、高杉の持つ刀が銀時の脇腹を貫いた。
銀時の口から、呻き声と共に鮮血が溢れ出る。
「―――――え・・・」
「急所外したか」
舌打ちをする高杉を、沖田は見上げた。
「―――――どうして・・・!高杉・・・っ!!」
更に拳銃を取り出した高杉を見て、沖田は顔色を変えた。
銀時に駆け寄り、船のエンジンをかける。
「早く逃げろ!早く!」
「――――一緒・・・、に・・・」
銀時の言葉に、沖田は首を振った。
この船では二人は乗れない。第一、狙い撃ちにされたらひとたまりもない。
刀を脇腹に貫通させたまま、それでも銀時は沖田を強い眼差しで見つめる。
「・・・ありがとう、旦那」
銀時の手にアクセルを握らせ、船を思い切り空に押し出した。
そして、高杉に向き直る。
「どけ」
冷たい目で見下ろす高杉に、沖田は口を開いた。時間稼ぎの為だ。
「・・・・お前が俺にこだわるのは旦那のせいだろう?裏切られて悔しいのは、それだけ旦那を信用してたって事じゃねぇのか?あの人を殺したってお前は救われない」
「どけ」
動こうとしない沖田を押し退け、高杉は引き金を引いた。
「止めろ・・・!」
容赦なく発される弾丸が、銀時を掠めるのが見える。
「止めろ―――――――!」
夢中で高杉の腕にしがみ付くのと、爆発音が轟いたのは同時だった。
「・・・死んだか?」
「――――――・・・」
煙と炎で、何も見えない。
沖田は呆然と、その光景を見つめた。
「死体に証拠さえ残っていれば問題ねぇな」
「・・・・・・・」
へたりと座り込む沖田に向かって、高杉は笑い掛けた。
「真撰組一番隊隊長、民間人に手を掛けて攘夷志士と共に逃走。・・・こんな筋書きはどうだ?」
高杉の言葉は耳を素通りする。
「―――――旦那・・・」
今の全てが現実とは思えない。
“死ぬ筈がない”
そう思う反面、恐怖が沖田を襲う。
吐き気がした。
気力で支えていた身体から力が抜けていく。
胸を押さえて蹲る沖田に、高杉は眉を寄せた。
「・・・クスリが効き過ぎたか?」
沖田を抱え上げ、高杉はもう一度振り返る。
幕府の船は減速し、銀時の救出に取り掛かったようだった。
「戻るぞ」
擦れ違いざま声を掛ける高杉に、武市は恭しく頭を下げた。
「はい」










――――何故、自分は生きているのだろう。
沖田はぼんやりと部屋の外を眺めた。
ビルの陰など一つもない、長閑な田舎の風景。
どこか、故郷の武州に似ていた。
あれからどの位の時間が過ぎたのか、江戸では何が起きているのか。何一つ、沖田の耳には入ってこない。
高杉の欲望の捌け口としてのみの生。死も与えられない。
気が狂いそうになる時間も過ぎ、今は屍のように、ただ生きている。
「おい」
声を掛けられて振り向くと、女が立っていた。
何度か見かけた事がある。確か・・・、来島、と呼ばれていた。
女は沖田を見ると眉を寄せた。
「お前・・・、中毒者か?」
「―――――・・・コレなしでこんなトコ居られるかよ」
口元に笑みを乗せ、沖田は小さな包みを来島に見せた。
昼も夜もなく、気が向くままに沖田を抱く高杉から、精神を守る為に手を出した。
ほんの一時、夢を見れる。幻想で銀時に逢える。
「何で、こんな奴を・・・」
来島は悔しそうに、その綺麗な顔を歪めた。
「晋助様は、お前を・・・、抱くのか・・・?」
「・・・・・」
「・・・どうやって・・・、抱く・・・?」
沖田は彼女から視線を外した。
嫉妬されても、どうしようもない。
「お前等の収入源はコレだろう?お前はやんねぇの?結構トべるぜィ」
「そんなの、仲間内じゃ誰も手ぇ出す奴なんていない。お前の言う通りただの商品だ」
「・・・そうかよ」
沖田は再び窓の外に目を向けた。そんな沖田を、来島はじっと見つめたまま続ける。
「晋助様は今日は帰らない」
「―――――・・・」
その一言で、沖田の身体から力が抜けた。
「嬉しいのか?」
「・・・嬉しいよ」
呟いた沖田に、来島は徐に近付くと顔を覗き込んできた。
「教えて欲しいっす」
「え?」
「晋助様がどうやってお前を抱くのか、教えて欲しいっす」
驚き、目を見開く沖田に、来島は口付けた。
「―――――な・・・っ」
思わず顔を逸らす沖田の頬を両手で掴み、来島は縋るような瞳で見つめてきた。
「何度頼んでも、私をあの方は女として扱ってくれない。だから、代わりでいいから、お前でいいから・・・」
「――――何、馬鹿なこと・・」
「それとも、男としか寝れない?」
「――――――、」
かぁっと、頭に血が上った。
来島はそんな沖田に構わず、再び唇を寄せてくる。その腰を引き寄せた。
「あいつのキスはこんなんじゃねぇよ」
言いながら、激しいものをくれてやった。
何度も、覚えるほど繰り返されたそれを彼女に。
「―――――ん、はぁっ・・・、」
晋助・・・、様・・・
彼女の口から洩れるあの男の名。
頬を紅潮させ、欲情する彼女の表情が自分のそれと重なり、吐き気がする。
高杉の前でこんな姿を曝してるかと思うと、ぶつけようのない苛立ちが込み上げる。
―――――どうにでも、なればいい。
投げ遣りに吐き捨て、沖田は彼女の、自分とは違う胸の膨らみに手を這わせた。

あの男の様に。
あの男の名を呼ぶ女を抱いた。

狂っている、と思った。
























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あぅ。ドン引きされるの覚悟で書いちゃった・・・(青褪め)


・・・本当は救出してお終いの予定でした。でも、それじゃ何時もと一緒じゃん。
だらだら書いちゃおうかなー。とか思ったらこんなん(涙)
なんかもう、ほんっと、すんません。色んな意味で。突っ込みも沢山あるとは思いますが。辛抱して下さい(土下座)