視線が、
絡みつくような、熱い視線が――――――
その日、部屋に戻ると高杉が戻って来ていた。
冷たい汗が背を伝ったが、沖田は何時ものように、隅の方に小さく蹲るように腰を下ろした。
高杉はちらりと視線を向けただけで一頻り三味線を掻き鳴らした後、やはり何時ものように沖田を呼んだ。
「寂しかったか?」
そう言って笑う表情が何時もと同じで、沖田はそっと安堵の息を洩らした。
「・・・ヤるなら、アレくれよ」
クスリ。
その懇願は、高杉に一蹴された。
「駄目だ。まぁ、あれは風邪薬程度の効き目しかねぇけどな」
三味線を置いて近付いてくる高杉から、沖田は目を逸らした。
「・・・いい加減、飽きろよ。偶には女抱けよ。相手したがる女、いくらでもいるんだろ?」
「―――――来島、か?」
「――――――」
笑いを含んだ声に、沖田は気付かない振りをして高杉を見上げ、そして息を呑んだ。
――――――知っている。
高杉は沖田と来島の関係を知っているのだ。
身体が震えだすのが分かった。
「お前も罪な事すんじゃねぇか。それとも、お前こそ女が欲しかったか?」
「―――――・・・」
じり、と沖田は座ったまま後退ったが、すぐに壁に背が当たる。
「あいつは相当たまってるみてぇだから、別の男をやったよ。大勢な」
「―――――っ!」
沖田は目を見開いた。
まさか。
まさか、自分の仲間にそんな事を?
「高杉―――――っ!」
怒りに任せて振り上げた沖田の拳をかわすと、高杉はその腕を掴んだ。
「何だ、惚れたか?」
「あいつが惚れてんのはお前だ!それなのに――――!」
高杉は笑みを消さず、沖田の腰を引き寄せた。
「俺のモンに手ぇ出すってのがこういう事だって、あいつも知ってんだよ」
沖田の顎を捕らえ、無理矢理唇を合わせてくる高杉に抵抗をしたが、まるで敵わない。
「クスリのせいだ。そんなんじゃ、逃げ出す所か女一人守れやしねぇ」
「・・・・・っ、」
悔しくて仕方がないのに、身体がいう事を聞かない。
足掻く自分は傍から見て滑稽だろう。それでも今、この最悪な男に弄ばれる気にはどうしてもならない。
指先に力を込めて思い切り引っ掻くと、血の匂いがした。
「・・・猫だな」
そう言った高杉の瞳は猛獣のそれだ。掴んだ手に力がこもる。
「―――――あ・・・っ!」
身体ごと床の上に叩きつけられ、沖田は呻き声を洩らした。
そのまま、着ている物を剥ぎ取られる。
「嫌・・・!だ・・・!」
痛みを堪えながら、畳の上でそれでも沖田は抵抗した。びり、と着物が裂ける。
高杉を蹴っていた足首を掴まれ、限界まで折り畳まれると、尻を突き出す格好になった。
「―――――や・・・、」
最早意味のない、拒絶の言葉。腕を振り回し、手に当たった物を引っ張り、掻き毟る。
それが包帯だと気付いたのは、高杉が息を呑む気配がしたからだった。
薄らと目を開けて、沖田は言葉を失った。
抉られた眼球。
酷い傷の下に空いた空洞に釘付けになった時、高杉が内部に侵入ってきた。
「―――――あぁっ・・・!」
何処が痛むのかも分からない。
けれど、一番痛かったのは心臓だったかもしれない。
どうしても、どうしても許す事が出来ない男が経験した戦の激しさを垣間見た気がして、心が痛んだ。
目を開けるとその闇が迫ってくるので、必死で瞼を閉じていた。
そうして、朝までの長い時間を、耐えた。
「すごい抵抗だったな」
翌朝目覚めると、高杉が自分の身体を眺めて笑っていた。
痣と引っ掻き傷だらけのその身体を見て、沖田は顔を顰めた。
そして、自分の身体には無理矢理暴かれた部位を除いては傷一つないのに気付く。
この矛盾に、また心臓が痛んだ。
包帯は解かれたまま、布団の横に無造作に置かれている。
恐る恐るそれを手に取り、高杉を振り返ると、彼はまた笑っていた。
「怖いか?」
「・・・んなワケねぇだろ。・・・戦った、証だ」
沖田は立ち上がると新しい包帯を探した。箪笥の一番上の引き出しにそれはあった。
「巻いてやる」
そう言って近付く沖田を、高杉は無言で見つめていた。
朝日が差し込む中、包帯の擦れる音が部屋に響く。
「・・・・お前、今日道場へ行け」
ぽつり、と高杉が言った言葉に、沖田は首を傾げた。
「道場?なんてあんのかィ?」
「ある」そう言った切り、高杉は大人しく沖田の手の動きが止まるまで待っていた。
道場へと向かう沖田は視線を感じて足を止めた。
その熱い視線の主は来島だった。
「―――――お前・・・」
大丈夫か、と声を掛けるのを躊躇う。大丈夫な筈がない。
そんな沖田に構わず、来島は堂々と沖田に近付いて来た。
「・・・もう俺に近寄んの止めろよ」
「平気。晋助様の物に手を出したんだから、このくらいの覚悟は出来てるっス。・・・道場、案内しろってアタシに言ったのは晋助様だし」
「―――――え・・・?」
沖田には理解出来なかった。
何故、こんな仕打ちを受けてまで彼女は高杉に仕えるのか。
「知られてんだから、もうこそこそする必要もないけど。でも、あれっきりってのは惜しいと思ってるっス」
「・・・・・?」
「アンタのセックス、良かったから」
そう言って笑った来島を、沖田は呆然と見た。
―――――クスリなしで、充分こいつらあぶねぇ・・・。
続
*****************
壊れてきてます。(うん!!私がね!!)