知らぬは自分ばかりなり
優衣ちゃんはOREジャ−ナルのバイトの一件以来、令子さんや島田さんとすっかり仲良くなってしまった。
今日も三人仲良く映画とショッピングに行くと出かけてしまった。
そんな優衣ちゃんをおばさんは実に嬉しそうに見送って、ついでに自分も例によってアマゾン同好会なるものに行くと、いそいそと店を後にしたのはつい先程。
ぽつんと店に残された俺と蓮は、言葉も交わさないままとりあえず店の準備を始めた。
今日は休日で、天気がとても良い。
何が悲しくて仏頂面の男と二人きりで店番をしなくてはならないのだろう。
まあ、でも・・・。
出かける前の優衣ちゃんの嬉しそうな表情を思い出すと、こういう休日も仕方ないかと思えてくる。
テ−ブルを整えて綺麗に拭いて、よし、と俺が頷いた時、店の扉が開いた。
「 いらっしゃいませ〜 」
蓮と俺の声が重なる。営業用スマイルを客に向けた途端、俺は目を見開いた。
「 き、北岡さん!?どうしたんですかっ? 」
蓮が店の奥からゆっくりと出て来る。
「 何の用だ 」
睨みつける蓮に視線もくれず、北岡さんは相変わらずゆっくりとした、優雅と言えなくもない動作で椅子に腰掛けた。
「 用も何も、ここは紅茶専門店でしょ?紅茶飲みに来たに決まってるじゃない 」
「 白々しい 」
尚も蓮は厳しい視線を崩さない。俺は慌ててそんな蓮を厨房に押しやった。
「 北岡さんはお客だって言ってんだろ?その喧嘩腰やめろよ! 」
小声で言った後、俺はにっと北岡さんに笑って見せた。
「 え〜っと、ご注文は? 」
「 ダ−ジリンをセカンドフラッシュで 」
「 はいはいはいっと。蓮、ほら、作れよ 」
不満そうな蓮を急かしながら、俺は水とおしぼりの用意を始める。
「 今日は一人ですか? 」
ふと、何時も一緒にいる秘書の事を思い出しながら北岡さんに聞いてみると、その顔が急に面白くなさそうに歪んだ。
「 別に、お前に関係ないだろ 」
「 なるほど 」
北岡さんの言葉に、蓮は人の悪い笑みを浮かべた。
「 秘書に相手にされないから、暇つぶしにばかをからかいに来たか 」
・・・ばかって誰の事だ?
俺は首を傾げた。
「 まあ、そんなトコ 」
険悪だったくせに、蓮の言葉に素直に頷く北岡さんにむっとしたが、その理由はいまいち自分でもよく分らない。
「 ところで城戸君、令子さんは休日何してるか知ってる? 」
「 ああ、令子さんは今日島田さんと優衣ちゃんとお出かけ 」
にっこりと笑って答えたが、北岡さんは顎に手をかけて考え込んでしまった。
「 最近仲イイよね、あそこ 」
「 そうですね。なんか先週もお菓子作るとか言って三人でここの台所に篭ってましたよ 」
結局出来あがったらしいお菓子は見ることも食べさせてもらうこともなかったのだが。
失敗したのか、三人で食べてしまったのか。
その事を話すと、北岡さんは口を開いた。
「 どう思う? 」
真剣な表情で問い掛けるその視線は俺を通り越して蓮に向けられている。
「 どうもこうも・・・。そうかもな 」
「 やっぱりそう思う? 」
「 ? 」
二人の会話の意味がさっぱり解らない俺は、カヤの外にいるようで落ち着かない。さっきから自分だけ仲間外れにされている気がする。
「 俺としては、令子さんと優衣さんなら許せる 」
「 優衣は意外と攻めだと思うが・・・ 」
「 あ、君もそう思う? 」
「 ??? 」
俺は更に首を傾げる。優衣ちゃんと令子さんがどうしたって?
「 島田も一緒だというのは確かか? 」
蓮が俺に問い掛ける。
「 え?確か優衣ちゃんはそう言ってたけど・・・ 」
「 彼女もなかなかイケるが、激攻めだと思うよ?令子さんはあの鈍さから言って受け間違いないだろう 」
激・・・、攻め?受け??
「 ちょ、ちょっと待って。さっきから何の話ししてんの? 」
俺は混乱して、素直に聞いてみることにした。
二人は暫し視線を交わして、それから、先に口を開いたのは北岡さんだった。
「 ・・・例えばさあ、令子さんと優衣さんがキスしてるのを想像してみて? 」
・・・・・。
・・・きす?
きすって、キッスのことか?ちゅうってやつ??
俺は思わず想像してしまった。
「 城戸、涎 」
蓮の声にはっとして口元を拭う。
なんて事を言い出すんだ、この人はっ!?
「 何言ってるンですかっ!? 」
叫んだ声が裏返る。
「 ――― 例えば・・・ 」
今度は蓮が静かに口を開く。
「 二人が裸で抱き合う所を想像してみろ 」
・・・・・。
は、は、・・・はだか・・・?
またもや想像してしまった。
「 城戸君、鼻血 」
俺は慌てて鼻を押さえた。
素晴らしい、もとい、イケナイ妄想をしてしまった自分を反省する。
それにしても・・・。
「 ・・・本気で言ってないよな? 」
恐る恐る確認してみた。
「 悪いか?事実だったらどうする? 」
平然と蓮が言う。
「 だって!二人はその、お、女同士だろっ 」
自分で言ってて赤面する。世間にそういう趣味の人達がいるという事は知識として知っている。・・・だけど、だけど・・・。
「 城戸君、それは偏見だよ? 」
「 偏見じゃなくって、優衣ちゃんや令子さんや島田さんに限ってそんなコトは絶対にないから!! 」
「 それが偏見だろ?仮にもジャ−ナリストがそんな事でいいのか? 」
平然と言う蓮が信じられない。ずっと一緒にいた優衣ちゃんをそんな風に見てたのか。
「 仕方ないなあ。城戸君、俺が教えてやろうか? 」
かたん、と椅子から立ち上がる北岡さんをぎくっと振りかえる。
「 教えるって、な、何を・・・? 」
「 世間には色んな人間がいるってこと 」
そう言って、にこりと微笑む。怖い。
俺はじりじりと後ずさる。と、突然後ろからがしっと羽交い締めにされた。
振りかえると、それは蓮だった。
「 何だよ、離せよ! 」
じたばたと暴れる俺の耳元に蓮の息がかかる。
「 立派なジャ−ナリストになれるよう協力してやる。経験は多いほうがいいだろ? 」
「 ケイケン? 」
前から近づいてくる北岡さん。
後ろには蓮。
何が起こるか解らないが、俺は思わずぎゅっと目を閉じた。
「 ・・・飽きないねぇ 」
笑いを含む北岡さんの声に、そっと目を開けた。
「 暇つぶしにはなるだろう? 」
呆れたような蓮の声。
"ばか"というのは自分の事だという事に気付いたのは、その時だった。
続きを書いてみました(書くなよ)
後悔しそうな方は引き返して下さい(汗)っていうか、今してます?(笑)
ちなみに地下ではありません。途中で諦めました・・・(根性なし)
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