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いつまでも止まらない彼の涙を見つめていた。
すぐにでも駆け寄り、彼の存在をこの腕で確かめて、その雫を拭いたかった。
だが、蓮の足は縫い付けられたようにその場から動かない。
「 ・・・ 俺が死んだ後、皆どうなったんだ・・・?北岡さんや浅倉は ・・・ 」
ようやく少し落ち着いたのか、真司は少し顔を上げて蓮に問い掛けた。聞きたい事は山ほどあるのだろうに、真っ先に他人の心配をする彼が、変わっていなくてほっとする。
「 オ−ディンは俺を最後のライダ−だと言った。・・・ おそらく ・・・ 」
「 ・・・ 二人とも ・・・ ? 」
「 ああ 」
蓮の答えを半ば予想はしていたのだろうが、真司の瞳は悲しげに揺れた。
「 恵里さんは ・・・ 、目を覚ましたのか・・・? 」
真司の唇が細かく震えている事に気がついた蓮は一瞬の逡巡の後、口を開いた。
「 多分、な ・・・ 」
「 彼女に会ってないのか? 」
驚いて目を見開く真司に無言で頷く。
「 どうして・・・ ! 」
「 俺の望みは自分の命じゃなかった。望みを叶えて、更に生き残れる程あの戦いは甘くはなかった、という事だろう 」
確かにあの中で最後まで残ったのは蓮だった。しかし、全てを理解できた訳ではない。
他のライダ−達はどうなったのか。何故オ−ディンに勝てたのか。ミラ−ワ−ルドは、モンスタ−は、そして残された人々はどうなるのか。この惨劇の結末は・・・。
何もわからないまま、新しい生命に手を伸ばした。その時の蓮の気持ちは一つだった。
この世にあって欲しい生命はたった一つ。
――――― だが、最期の真司の言葉がそれを思い止まらせた。
微笑むように瞼を閉じた最期の彼の表情が、蓮の願いを拒否していたのだ。
そしてまた、優衣も同様に。
蓮が勝ち残った者として願いを叶え、幸せになったのだとばかり思っていたのだろう、真司は信じられない、という表情で蓮を見つめている。
「 ――― 何だよ、それ ・・・ 」
「 勘違いするな。俺は最後、自分の欲望に従って願いを叶えた。あれは誰の為でもない、自分の為だ 」
「 恵里さんの為、だろ? 」
「 違う 」
蓮はきっぱりと否定した。
「 愛 」という名で、「 責任 」という言葉で彼女と己を縛り付けていたのは、蓮自身だった。
そんな自分を解放しただけだ。あれだけの犠牲を払って手に入れたのは、ただそれだけの望みだった。
結局、悪は神崎士郎ではなく自分だったと思い知る。
蓮の信じるものは、最後の最後まで他人のために戦った真司だけだ。
新しい生命などで彼を汚すことはしたくなかった。それほどに最期の彼は美しかった。
互いの記憶が交わった今、蓮は自分の感情を理解する事ができないでいた。
この状況を喜んでいるのか、それとも・・・。
他にも交わすべき言葉はあったが、二人はそのまま押し黙り、沈黙が部屋を満たした。


何時の間にか夕闇がせまり、部屋に影を作っていた。
「 ・・・ そろそろ出よう 」
蓮は懸命に足を動かし、扉の前に突っ立ったままの真司を促して外へと出た。
「 何所に行くんだ? 」
「 ・・・ お互いの、帰る場所に 」
当然のように言う蓮に、真司は不安そうに眉を寄せた。
「 ・・・ また、会えるだろ?お前今何所にいるんだよ?このまま消えたら一生恨むからな! 」
その言葉に蓮は苦笑した。
「 ・・・ 正直、記憶が戻ってからのこの世界は落着かない。・・・ 今まで顔もろくに見ない親が揃って家にいる事が奇妙に思えて仕方がないしな 」
「 何でだよ?良い事じゃんか 」
曇り一つない瞳で言い切られ、蓮はそれに眩しさを覚えた。
「 ・・・ そうかもな ・・・ 」
「 恵里さんも、いるんだろ? 」
その名を口にする時、真司は一瞬辛そうな表情を浮かべる。
それに気づいたのは、つい先程の事だ。
「 ・・・ あいつがどこかで笑っているのなら、それでいい 」
「 ・・・・・ 」
再び長い沈黙が二人を襲い、“ 帰る場所 ”へと続く道程を辿る足を重くした。
「 ・・・ 戻れるのなら ・・・ 」
どちらともなく呟きが漏れ、重なった。
冷たい風が二人の間を吹き抜け、その音を攫う。
互いの耳に届いたのかは分からない。

その日二人はそれぞれの帰途についた。







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う〜ん。ギャグにならない・・・。(え?充分笑える?)
しかし、アップしてからちょこちょこ書き直すのやめなくちゃ。
でも読み返すと気になるし、読み返さないと不安だし。
(直しても一緒という言葉もどこからか聞こえてきそうな・・・)


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