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「 どう思いますっ!? 」
真司は鼻息も荒く叫んだ。
「 ・・・ どうって・・・、何よ? 」
超売れっ子のカリスマ弁護士北岡秀一は、朝から山のように積まれた書類に目を通していた。いい加減うんざりとしているのに、突然やってきたジャ−ナリストだと名乗る城戸真司の愚痴に付き合わされていた。
「 俺の話聞いてるんですか? 」
口を尖らせてこちらを睨む彼に見せ付けるように、北岡は溜息を吐いた。
「 だからさあ、君、誰よ? 」
彼の所属するOREジャ−ナルの桃井令子の事は、知っている。何度か食事にも誘った事のある彼女の後輩だというので家に入れたが、先程から彼は昔からの知り合いでもあるかのような口調で、北岡の全く知らない男のことを話しているのだ。
「 俺は城戸真司です 」
「 それはさっき聞いた 」
「 ・・・で、その彼が貴方に指一本触れない事が不満だと? 」
やんわりと二人の間に入ってきた北岡の秘書である由良吾郎は、真司に紅茶の入ったカップを差し出しながら言った。
「 ま、早い話がそうなんだけど・・・ 」
カップを受け取りながら、真司は顔を赤くして頷いた。
「 何でそんな話しを俺に言いに来るワケ? 」
北岡はいらいらと真司を睨みつけた。
「 だって、あの頃は気付かなかったけど、北岡さんと吾郎さんもそういう関係なんでしょ? 」
さらりと言う真司に、由良は目を見開いた。北岡はその隣でお茶を吹き出す。
「 あの頃?俺達何処かで会いましたっけ? 」
「 ・・・まあね 」
その辺は詳しく説明できないけれど、真司は曖昧に微笑んだ。
「 じゃあさ、その相手はお前のこと好きじゃないんだって。じゃなきゃ、ノ−マルなんじゃない? 」
北岡はとにかく、このおかしな男に早く帰ってくれと言わんばかりの口調で早口に捲くし立てる。
「 違う!蓮は俺のこと嫌いじゃない! 」
そんな北岡をフォロ−するように由良が口を挟む。
「 ・・・ 久しぶりに会った友人が一番大切な人だと気がついて、気持ちを確かめ合って、一緒に暮らし始めたんっすよね? 」
「 うん。そう 」
一緒の部屋で暮らし、同じベッドで寝起きするようになって二週間。何もないのだ。手をつなぐ事すら。
こんな事で悩むなんておかしいと思いながら、ふと北岡と由良の事を思い出して、真司はここに訪れた。
「 やっぱ、俺が男だから駄目なのかな? 」
真司は真剣に悩んでいた。
「 二人は最初からホモでした? 」
悪気なく言ったつもりだったが、北岡の血管がぶちっと切れる音が聞こえた気がした。
「 先生・・・ 」
由良は苦笑を浮かべている。
と、その時玄関のドアが開く音がして、真司は振りかえった。そのまま凍りつく。
そこにいたのは浅倉威だった。
「 浅倉っ!?お前、まだ北岡さんのこと狙ってるのかっ!? 」
「 ・・・ 何だ、お前 」
階段の上から睨み付けられて、真司はびくっと身構えた。
「 何、城戸君彼の事知ってるの? 」
北岡は意外そうに二人を交互に眺めた。
「 俺は知らないぜ、こんなヤツ 」
言いながら、勝手知る様子で浅倉は台所に入っていった。どうやら冷蔵庫を漁っているらしい。
「 なんかさあ、ごろちゃんがエサやったらなついちゃって。たまにこうやって来るんだよねぇ 」
溜息を吐く北岡に、由良は黙って頭を下げる。
「 大した悪さもしない奴だけど・・・。あいつ何か記事になるような事したの? 」
「 ・・・ いえ、なにも・・・ 」
真司はほっと息を吐き出した。あの頃の浅倉とは違うのだ。
そういえば顔つきもどことなく以前より柔らかいかもしれない。
真司はどきどきしながら口を開いた。
「 浅倉、あの、弟さんは元気? 」
「 ・・・弟?ああ、暁のことか ・・・何でお前が知ってるんだ? 」
「 まあ、その辺は・・・、ちょっとね 」
真司は再び笑って誤魔化した。あまり余計なことを言ってはまずい、と頭ではわかっているがどうにも勝手に口が動く。
怪訝そうな目をしながら浅倉は、まあいい、と呟いた。
「 真面目に働いてるんじゃないか?最近会ってないから知らないが 」
・・・ちゃんと生きてるんだ・・・。
真司はまた安堵の息を吐き出した。
「 お前、なんか変わってるよね 」
そんな真司の様子を見ながら、北岡はしみじみと言った。
「 ・・・うん 」
真司は頷いた。彼等自身が知らない彼等を知っている自分、それは確かに奇妙かもしれなかった。最期、皆がどうなったのか知りたかったがそれだけは聞くわけにいかない。また、聞いて解るものでもなかった。今の彼等に" 最期 "などないのだ。
「 ありがとう、北岡さん、吾郎さん。仕事の邪魔してごめん 」
真司は立ち上がると、にっこりと笑顔を二人に向けた。
「 ・・・ いや、まあ・・・、いいけど・・・ 」
北岡は戸惑うように視線を泳がせた。彼の事は知らない。全く覚えがない筈なのに、何故かその笑顔だけは何処かで見たような気がした。
「 浅倉も元気でなっ! 」
ぽん、と浅倉の肩を叩く。彼は何も言わずに不思議そうな視線だけを真司に向けた。
「 城戸さん 」
帰り際ドアの所で由良に呼びとめられた。
「 きっとその彼は、城戸さんを傷つけたくないんすよ 」
「 傷つく?俺が? 」
由良はゆっくりと頷いた。
「 だから、城戸さんがそれで傷なんかつかないって事を彼に伝えなくちゃ駄目っす。自分の今の、その気持ちを正直に 」
由良の言葉が素直に胸に響いてくる。まだまだ足りないのだ。蓮と自分は、もっともっと話さなくちゃならない。触れ合う前に。
「 ・・・・・ そっか 」
真司はこっくりと頷いた。
「 ありがと、吾郎さん 」
手を振って北岡事務所を後にする真司の背に、由良の声が届いた。
「 また来て下さいね 」
真司は嬉しかった。
記憶をなくしても、皆以前と同じだった。
「 ほら見ろ、蓮。最初から悪い奴なんていないんだ 」
優衣ちゃんは「少しの修正」だと言った。その通りだと思う。
きっと皆、以前は寂しかったんだ。寂しくて、寂しくて、それを埋める何かを夢中で探していた。多分、蓮も。
真司はふと、足を止めた。
―――― では、自分は・・・?
自分は寂しくはなかったのだろうか?
今、皆は寂しくはない?
・・・・・ 蓮も?
真司は自分の中に今まで感じたことのない何かが沸きあがってくるのに気がついた。
「 ―――― おい 」
立ち尽くす真司に声をかけたのは、道端に座り込む若い占い師。
真司は無言でそちらに視線を向けた。
「 ・・・手塚・・・ 」
――― 生きている。彼も、真司の腕の中で確かに息を引き取った彼も、生きていた。
真司は涙が零れそうになるのを堪えた。
「 ・・・あ、何?占ってくれるの? 」
「 お前の未来は何も見えない。ただ白い。白く、明るい道が見えるだけだ 」
・・・それって・・・。
「 だが、お前の過去は暗い闇しか見えない。どういう事だ? 」
「 ・・・・・ 」
それは、自分が一度死んだ人間だからなのだろうか。真司は言葉を発するのを躊躇った。
そんな真司を彼は黙ったまま見つめ、それから静かに口を開いた。
「 俺は、お前のような奴を知っている。何人もいた 」
「 えっ!?何人もって・・・、何人くらい? 」
・・・まさか・・・。
真司の頭に一つの考えが浮かぶ。
「 俺が見たのは10人だったか・・・ 」
「 ―――― その中に、お前も入ってるんだろ? 」
確信に近かった。それはおそらく、あの世界で死んで、甦ったライダ−達。
「 ・・・どうして分った? 」
手塚は眉をひそめて真司を見つめた。
「 なんとなく、かな? 」
「 お前はこの理由を知っているのか?俺はこんなに何も見えない人間など知らない。以前は自分の未来も透えたのに、一年ほど前から急に分らなくなった。そして、お前達に出会った 」
分らない事への不安。運良く自分は記憶を取り戻したが、彼らは皆不安を感じているのかもしれなかった。自分も記憶を取り戻す前、微かな違和感を覚えたことがあった。
それは蓮に会ってから確かなものとなり、どこかで会ったことのある気がする彼が気になって仕方なかった。
・・・何時か、彼等も思い出す時がくるのだろうか?
しかし、今の彼等ならば思い出しても大丈夫な気がする。だから手塚には皆の未来が明るく見えるのではないだろうか。
「 全部見えたら面白くないだろ?お前の占いは当たるって、俺知ってるし 」
「 ・・・ どうして知ってるんだ? 」
眉を寄せる手塚の顔を見て真司ははっとした。また余計な事を口走ったのだ。
「 ・・・友達に聞いたんだ! 」
納得したらしい彼は、真司から視線を外した。
―――― そして、悪い結果ほど当たらなければいいと思っている事も知っている。
死ぬ運命だった自分を助けて、手塚は自分自身の力で占いの結果を変えた。
浅倉があんな風に変わったということは、きっと手塚の友人も生きて、元気で、ピアノを弾いているに違いない。
真司はそっと瞼を閉じた。
帰ろう。
蓮の所へ帰ろう。
帰って、この気持ちを伝えよう。
自分でも持て余すこの気持ちを、伝わるまで話してみよう。
手元のコインに目を落とす手塚にもう一度視線を向け、真司は彼に背を向けた。
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とりあえず初夜まで書こうと思ってます。が、オ−ルキャラはやっぱりウソに終わりそうでごめんなさい(汗)
ライダ−にファムちゃんとリュウガとオ−ディンは入れませんでした。
・・・10人で良かったよね・・・?(笑)
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