DOLL 〜loving you〜


オレは人形になった・・・愛玩されるだけの人形に
それはあの人が望んだから。
だから、オレは決心したんだ。
――それなのに、あの人は裏切った。
オレだけを愛して、オレだけにしか触れないと約束してくれたのに――
それなのに―――
だから、オレは復讐する。どんな手を使っても・・・たとえ誰かを傷つけることに
なっても。


「―――はぁ・・・あっああ。」
「くうっ。」
部屋に響き渡る荒い息遣い。そして、漂う汗の匂い。
毎夜繰り返される行為は、互いの感覚を麻痺させ現実とは違う世界に連れて行ってくれる。嫌な事全てを忘れ、ただ快楽だけが流れ行く世界へと。
幸せだった。その快楽へと溺れることが。
毎日違う快感が身体に染み込み、溶け込んで感覚の一部になっていく。
本当に自分が感じていうるのか?それとも・・・全く違う誰かになってしまったのか?
そんな思いさえ感じてしまう。
間違いなくオレ自身が指で、唇で、肌で感じていることなのに―――
けだるい身体をシーツの波に溺れさせ、深い眠りへと落ちていこうとしているとき頭上から声が聞こえた。
「最近、感じ方が違うみたいだな。良くなってきてるのか?」
一番好きな、心地よい声色・・・この声に耳元で囁かれている時が一番彼を身近に感じ、安心出来るとき。
「・・・そうかも。でも、身体は辛い。スケベな誰かさんが容赦ないから。」
「フッ。」
口先だけで笑ういつもの声がしたと思うと、背中越しに抱きしめられ体中に熱いものが流れるような感覚に陥った。
「お前がいやらしい顔して誘うからな・・・抑えが効かなくなる。・・・ほら、もう
こんなになってきた。責任とってくれるか?」
手首を捕まれ導かれた先には、さっきまでオレの中で散々自己主張し感覚を麻痺させていたその物。一度熱気を放出したはずなのに、再び熱く熱を帯び始めていた。
「―――もう、これ以上したら明日起きれない。」
冷たく突き放した言い方で逃げてみる。しかし、手に伝わってくる熱でオレの身体が熱く乾いてきた。――そう、そのものを欲しがるかのように。
「つれないな・・・でも、お前の身体はそんな風ではなさそうだな。ほら。」
首筋に落とされる生暖かい感触。そして、何時の間にか脇へと回された大きくやわらかい手の感触。当時に加えられる快楽への序章が、オレの感覚を狂わせ何も考えられないようにしていく。

“―――蓮となら、このまま堕ちていってもかまわない・・・堕ちていきたい。”

頭の中でそう考える頃には、自ら愛撫を求め蓮に抱きついていく。
頭を抱え、腰を振ってもっと強く激しく刺激を加えてほしいと懇願する。きっと、普段のオレからは想像できない淫らな姿をしながら。
でも、それは彼が・・・蓮が強く望み、そうなるようにオレに仕込んできたこと。
そうしなければ、蓮のより激しい愛撫を・・・オレだけに向けてくれるあの微笑をくれることはないから。蓮の愛がほしくて、蓮の求めることをする。
何時の間にかそうなってしまったオレ。でも、決してそれは苦痛ではない。自分がそうしたくてはじめた事だから。
「はぁっ・・・蓮。も・・・もっと、つ。強くぅ。ああぁ―――」
「城戸・・・城戸・・・」
耳元で何度も囁くように呼ばれる名前。その心地よい音色に流され、何時の間にか自分から発せられる声も大きくなっていく。
「もっとぉ―――もっと、激しくしてぇ。」
後ろから激しく突かれ、次第に頭で何も考えられなくなっていく。後は、本能のまま蓮の全てを求めていくだけ。
そして、最後を迎えるかのように速さを増す蓮の動き。それにあわせて、オレも腰を動かし一番感じ・・・気持ちがいい場所へとそれを導く。
そして、迎える終焉。
「もぉ――い・・・くぅ。あああっ――――」
「し・・・んじぃ。うっ。」
全てをオレの中に吐き出し、崩れ落ちるようにして凭れ掛かってくる蓮。
蓮の全てを受け止め、力尽きるオレ。二人でなだれ込むようにベッドに倒れ、そのまま深い・・・深い眠りへと落ちていく。こんな甘い、快楽に溺れた時間が続く毎日。
そんな毎日が続くと思っていた・・・このときは。

それなのに、こんなことになるなんて―――



久しぶりの休日。・・・本当に久しぶりの休日だった。最近はジャーナリストとしての仕事も認められ、休日も取材が多く休みを取ることも出来ない状態が続いていた。
当然、蓮とすれ違いの生活を送らなくてはいけなかったわけで。心は当然・・・快楽を一度覚えた身体は、渇きを覚え限界にきていた。
“蓮に、触れてほしい。抱いてほしい―――”
ここ数日は、こんなことばかり考え仕事も手につかないときが少なくなかった。
そんな久しぶりの休日―――
少しゆっくり休んで起きると、階下は微かに賑わいを帯びているようだった。このまま、まったりと休日を過ごしたい・・・という意識が全くないわけではないが、少しでも蓮と同じ時を過ごしたいという気持ちから体を起こし、身支度をはじめる。
先に花鶏の手伝いに下りていった蓮を追うようにして、自分もエプロン片手に階下へと足を進める。
店中に広がる紅茶の香り・・・その安らぎを覚える香りを胸いっぱいに吸い込み
「おばさん、蓮。何すればいいかな?」
エプロンをつけながらキッチンへと足を進める。すでに接客をしていた蓮と、新しい紅茶へとお湯を注いでいるオーナー沙奈子が同時に振り返った。
「真ちゃん、久しぶりの休みに悪いわね。とりあえず、お皿洗ってくれるかな?そこまで手が回らなくて・・・」
そう言うと、次の紅茶へとお湯を注ぐ。言われて気がついたのだが、休日ということもあって店内はかなりのお客が入っていた。接客している蓮も、額に汗を微かに滲ませているほどに。
洗い場に立つとそこには、かなりの数の茶器や皿が詰まれている状態だった。
「・・・それでは、はじめますか。」
誰が聞いている訳ではないが、一言発し再び気合を入れなおしてみた。花鶏の食器関係はおばさんのこだわりもあって、高価なものを使っている。割らないように気をつけながら一枚一枚洗っていく・・・しかし、客足の多さから洗っても減らない食器の数々。それとも、自分の手際が悪いのか・・・?焦りを感じ始めた頃、手の中から皿が一枚滑り落ちた。
“ガッシャーン”
店内に割れる音が響き渡ると同時に、全ての視線が自分に注がれるのがわかった。
「ったく、お前は皿洗いもロクに出来ないのか?ココは俺がする。お前は店に出ろ。」
俯き自己嫌悪の波にのまれようとしていたオレの背後から、愛しい人の声が聞こえる。
ぱぁっと笑顔で振り向き、抱きつきたい衝動をこらえわざと普段の二人・・・人前での二人の接し方を演じる。
「う・・・うるさい。わざとやった訳じゃないんだ。そんな言い方はないだろ。」
「現に皿は割れている。そんなでかい口を叩くのは、皿洗いぐらいちゃんと出来てから言え。」
「うっ・・・」
「ふぅ・・・まぁまぁ。蓮ちゃん。真しゃんも悪気があったわけじゃないんだから。
それより、お客様が見てるよ。真ちゃん、お店のほう頼むわね。」
二人同時で店内に視線を向けると、その場にいた人殆どがこちらを見てクスクス笑っている。顔が熱くなるのを感じながら、接客するためフロアに出る。
殆どの人からの視線を感じる中、ただ1人興味もなさげに読書をしている女性が1人。
その人に何か言い知れぬものを感じつつも、忙しさに終われ時は流れていった。

しばらくして、店も落ち着きを取り戻しホッと息がつけるようになってきた。カウンターの椅子に腰掛けながら、ナプキンを折る・・・視線を上げると蓮が、まだ皿を
黙々と洗う姿が入ってくる。
“ホントに、なにをやっても絵になるよな・・・蓮ってば。”
そんなことを考えながら、見惚れていると背後からもう1つ視線が注がれている感覚を覚える。ゆっくり振り返ると、さっき自分の失敗には興味なさげにしていたあの女性が蓮のことをじっと見ていた。その視線には、自分と同じ感情を含んでいるのは容易に感じ取れるほどに。
でも、いつもと同じ蓮にあこがれる女性の1人・・・そう、言い聞かせ再び作業に戻るべく頭を下げる。心のどこかに引っかかるものを残しながら。
しばらくして再び蓮の姿を気付かれないようにチラリを見てみると、信じられない光景が目に飛び込んできた。明らかにさっきの女性に向けて、蓮が微笑んでいるのだ。
あれほど、店にくる女性客の事を嫌っていたはずなのに・・・蓮が微笑んでいる?
蓮に気付かれないよう、視線を後ろに向けると・・・やはりさっきのあの女性は微笑んでいた。満面の笑みを浮かべて。

そしてオレはここ数日、自分の中で引っかかっていたものの理由が1つわかったような気がした。

この数日・・・蓮はオレの身体を一切求めてこなかった。仕事が忙しいオレのことを気遣って――だと思っていた。でも、その前だって忙しいときはあったはず。そのときは、何を言っても聞き入れてはもらえなくて朝方まで離してはくれなかった。それなのに、今回は求めてこない。疑問を感じつつも連日のハードワークに疲れきって、考えることすら出来なくなっている自分がいた。
そして、この女性への微笑み・・・蓮が心を許した人にだけにしか見せない微笑・・・
蓮があの微笑を見せたのはオレが知っているだけで2人。
以前の記憶の中で見せた。恵理さんと優衣ちゃんだけに。
そして今は、オレだけの物だと思っていたのに。だから・・・だから、蓮のために
――蓮となら――と思っていたのに。
今まで信じていたものが全て否定され、廃墟の中に1人いるような気分になった―――

しかし、実際二人が会うところを見たわけではない・・・この世界になって、人当たりがよくなった蓮だ。何かのきっかけで、打ち解けた女性(ひと)かもしれない。
信じよう、蓮の事を。オレだけを愛してくれると言った、蓮の言葉を―――


心に消えない何かを抱えながら、何とかその日の店の手伝いを終わらせる。
ほとんど、蓮とは話す事もなくとにかく仕事をした。あの女性は、閉店間際まであの席で本を片手にたたずんでいた・・・
よく見ると、蓮の好みっぽい女性だった。黒髪は流れるように美しく、背中まで達している。強く・・・意思を持った目は隙を見せない。身に付けている洋服は、派手さはないが決して安物ではないことがオレにでもわかる。仕事も出来る、頭の回転が速そうな美人、・・・きっと、彼女を見た人は全てそんな印象を口にするのだろう。
蓮が女の人を好きになるのなら、きっとこんな感じの人なんだろう。数少ない蓮の言葉を的確に判断し、理解してくれる女性・・・二人が並んだらきっとお似合いなんだろう。
そんなことを考えていたら、心の中が色んな感情で渦巻いて気分が悪くなってきた。
羨望―――嫉妬―――恨み―――
真っ黒い感情だけがオレの中で大きく膨らんでいき、いつしか憎悪だけが渦巻く様になっていた。
“許さない―――オレ以外の人に触れることも、微笑む事も・・・”
だが、二人がそんな関係であると決まったわけではない。オレの考えすぎということもある。でも――オレの中の本能みたいなものが、危険信号を出しているのは確かだ。
しばらく蓮の様子を見ることにしよう・・・そう思った。


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りんよりvv
いやぁぁぁぁぁんvvvvどうなるのでしょう!?この続き!?気になりません!?
更にヤラしく、イタイ内容です!!(←途中まで既に読みましたvvへへvvv)私、こんなにネガティブな真ちゃん初めて見ました(それほど他のりうき小説読んでないのですが)なんか、いいです!!この真ちゃんも頂きっ♪ぱくっvvああ!もうホントに食いてぇぇ(笑)
恵さん色々忙しくて完結はまだ先になりそうですが前半部分アップしちゃいましたvv気に入ってしまいましたので〜vvvv
うるさいコメントでごめんなさい。ありがとうございますvv続き楽しみに待ってますねvv
あ、不祥ながら題名勝手に入れさせて頂きました(汗)元の「DOLL」という題が気に入ってまして、副題だけ変えてみました。ごめんなさい。