一番近くにいる為に
砂漠の中にあるわりには活気のある町だった。
宿に落ち着いた三蔵一行はあまりの暑さの為、一様に無口だった。
買い物に行くと言った八戒に視線もくれず、くつろぎ始めた三人に苦笑を浮かべる。
「 ・・・ 行ってきますね 」
一応声を掛け、八戒は一人で町へと向かった。
日よけの為のマントを深く被った人々が行き交う中、何故その人物に視線が引き寄せられたのかは解らなかった。
一際背の高いその人物は、行く当てがないようにふらふらと歩いていた。
目が離せないのは危ういその雰囲気からか。
――――― 違う。
マントの隙間から偶に覗く金色の髪のせいだった。
声を掛けるのを躊躇い、八戒は離れた場所からその背を見つめていた。
どの位の時間そうしていただろうか。ほんの数秒でもあったようで、何時間も経ってしまったような気もする。
その人物は急に立ち止まると、辺りを見回した。
八戒に視線を止めると、おもむろにに近付いて来る。
「 おい。何の用だ? 」
あまりに突然の出来事で、八戒は声も出せず目の前の人物を見つめていた。
白い肌、肩に流れるくせのない金色の髪、深い、深い紫の瞳
――――― 。
一瞬女性かと思ったが、彼が口を開いた途端それは間違いであったと気が付いた。
「 用もないのに人の事をじろじろ見てんじゃねえよ
」
不躾に視線を送っていたのは事実だったので、八戒は素直に謝ろうと口を開いた。
「 ・・・ すみません。何所かで会った事があるような気がしたもので・・・
」
「 何? 」
「 でも、違ったようです。失礼しました 」
気まずい雰囲気に、早々に退散しようと八戒は彼に背を向けた。
「 待て 」
その場を去りかけた八戒の肩を、強い力が引き止めた。
「 俺を、知っているのか?」
「 ・・・ え? 」
「 俺が誰なのか、お前は知っているのか? 」
「 八戒、帰ってきた? 」
退屈してきたのか、先程から悟空はうろうろと三蔵と悟浄の部屋を行ったり来たりしていた。
「 先刻帰って来たみたいだ。部屋から物音がする
」
三蔵は心底鬱陶しい、という目で悟空を睨み付けた。
「 え−、何時も真っ先に俺にお土産持ってくんのに
」
ぶつぶつと文句を言う悟空に、帰って来たんだからいいじゃねえかと、三蔵はさっさと追い出しにかかった。そしてふと、切れた煙草の事を思い出す。
確かに何時も八戒は自分の部屋に戻る前に、それぞれに必要なものを渡してくれていた。
当たり前の事過ぎて今まで気が付かなかったが・・・。
「 ――― おい、悟空。様子見て――― 」
言いかけて、扉の前に立つ悟浄に気が付いた。
その目が何か面白いものを見付けた子供のように、悪戯っぽく細められている。
三蔵は思い切り嫌な顔を悟浄に向けた。
「 何の用だ。鬱陶しい、出て行け 」
「 ・・・ 興味ない? 」
隣の八戒の部屋を指差して、悟浄は更に嬉しそうな表情をした。
「 何?何、何なに!? 」
悟空が興味深々という風に飛びつく。
「 八戒、何か拾ってきたみたいよ 」
「 何かって、犬?猫? 」
「 エサはやるなと言っておけ 」
「 いや−、これがなかなか。八戒も隅に置けないね−ってカンジ?」
勿体振る悟浄に、悟空は教えろよ、と噛み付く。
「 お姫様♪ 」
「「 お姫様? 」」
三蔵と悟空の声が綺麗に重なった。
「 ・・・・・ 」
「 ・・・ 本当だ ・・・ 」
八戒の部屋に押しかけた悟空と悟浄は同様に口をぽかんと開けて、部屋の真ん中にある椅子に腰掛ける人物を見た。
「 これほどの美人とはな ・・・ 」
「 二人とも、見世物じゃありませんよ 」
八戒は苦笑を浮かべてそんな二人を見ている。
マントを脱いだ彼は純白の衣装を身につけていて、それが彼の容貌を一際美しく見せていた。
「 ・・・ じろじろ見てんじゃねえよ 」
しかし、彼が口を開いた途端、二人は固まった。
「 ・・・ お姫様? 」
悟空が悟浄にすがるような視線を向けたのを見て、八戒は思わず笑い出してしまった。
「 残念、お姫様じゃなくて王子様です 」
「 おい八戒、何だこいつらは 」
苛々とした声で八戒に訊ねるその様子が、誰かに似ている。
「 一緒に旅をしているんです。一応 」
「「 一応って何だ、一応って!? 」」
すかさずつっこむ悟空と悟浄にに、気が合いますねえと、のほほんと笑う八戒の神経を二人は疑った。
「 おい、八戒は今日からお前らとは別行動だ。さっさと出て行け
」
「 ・・・ 何様?何勝手な事言ってんだよ!?ナニ?こいつ
」
悟浄は怒りもあらわに八戒に詰め寄った。
「 まあまあ 」
やんわりと悟浄を制すと、八戒は小声で囁いた。
「 誰かさんに似ていると思いません? 」
「「 誰かさん? 」」
「 さっきからよくハモりますね、二人とも。・・・
記憶がないらしいんですよ、彼 」
「 何だって? 」
三人はそっと彼を伺い見た。
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コメント
今度こそ!金八らぶvえんどを目指してますが、どうなるやら・・・。しかもまたもや見切り発車な続きもの。もう泣くしかないです・・・。気長にお付き合い下さると嬉しいのですが・・・(気弱)