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その日、5人は夜の明ける前に町を後にした。
「 だ−、狭いって!」
砂漠を抜けるまでは、と無理矢理ジ−プに乗り込んだが、後部座席に悟空と悟浄そして金蝉が座っている為、見た目にも暑苦しい。
文句を繰り返す悟浄を4人は完全に無視しつつ、西へと向かっていた。
昨夜は結局深夜までカ−ドゲ−ムに熱中していた為、皆同様に無口で不機嫌、そして欠伸を繰り返していた。
「 悟浄、皆寝不足なんですから、少し静かにしてもらえませんか?」
うんざりと悟浄に告げた八戒は、ふと頭上に光るものを見付け、不審そうに眉を顰めた。
「 三蔵・・・、あれ・・・ 」
そっと隣に声をかけると、三蔵は何だ?と上を見上げた。
「 大きくなりますよ 」
徐々にジ−プの上に落ちてくるその光に、八戒は慌ててスピ−ドを上げた。
「 駄目だって、逃げ切れねえよ!」
後ろの三人も直ぐにその光に気付き、悟浄が声を上げた。
「 誰か、いる・・・ 」
ぽつりと呟いた金蝉に四人の視線が集まる。
それから光を確かめるようにもう一度頭上に視線を向けたが、眩しいその光に人の姿を確認する事など出来ず、目を細めた。
八戒もこれ以上目を開けている事が出来ずに、思わず急ブレ−キをかけていた。
激しい金属音を立て、砂埃を舞い上げながらジ−プは止まった。
その光はジ−プから少し離れた場所に静かに落下した。
「 ・・・ 本当だ。人だ 」
いち早く瞼を開けた悟空が呟き、その言葉に皆ゆっくりと目の前のものを確認する。
あれほど眩しかった光は影を潜め、落下したその場所には一人の男が佇んでいた。
「 ・・・ 随分探したぞ。金蝉 」
彼は真っ直ぐに金蝉を見つめている。
藍色の髪。左右で色の違う瞳。そして、両の手首には長い鎖の付いた枷を嵌めている。
「 あれが、お前らの敵か?」
「 今思いっきりお前の名前呼んだじゃね−か!」
男を指差して言う金蝉に、すかさず悟浄はツッコミを入れる。
「 ・・・ 金蝉、覚えてないんですか?」
「 知らねぇ 」
きっぱりと言い切る金蝉に八戒は言葉をなくしつつ、男に声をかけた。
「 ・・・あの、失礼ですが、金蝉とはどういう御関係ですか?」
八戒の言葉にようやくその男は金蝉から視線を外した。
「 ・・・ 俺の名は焔。金蝉の持つ三つの経文を貰い受けに来た
」
彼の言葉に金蝉を覗く四人は目を見開いた。
「 ・・・ 何だって!?」
「 金蝉、本当なんですか?」
「 ・・・ 知らねえ。今は何も持ってない。
」
困惑の色を隠し切れずに金蝉が呟いた科白に、焔は片方の眉を僅かに動かした。
「 知らない、とはどういう意味だ?あの町で無防備に顔を晒して歩いていたのは俺をおびき出す為じゃないのか?」
「 お前なんて覚えてねぇよ 」
そっけなく言うと、金蝉は口を閉じた。
あまりの忌々しさに舌打ちしたくなる。問題の渦中にいるというのに何も思い出せない自分に腹が立つ。
「 ・・・ まあいい。今日はそこの魔天経文をもらう
」
焔は当然の事のように言い放ち、三蔵を見据えた。
「 ・・・ 簡単に取れると思うな 」
三蔵は焔の視線を正面から受け止め、睨み返した。
「 経文を集める理由ってのは何でしょうね?
」
「 全部そろうと賞品でも当たるんじゃね−?
」
「 ああ、それ何か近い気がします 」
三蔵の背後でぼそぼそと会話をする八戒と悟浄に、悟空は声を上げた。
「 そんな事言ってる場合じゃね−だろ?あいつ強い気がする!」
「 悟空の勘ですか・・・。当たりますね 」
「 動物だからねぇ、じゃ、まあ、やるしかない?
」
言うなり、悟浄は飛び出した。
その攻撃をひらりと躱し、焔は口元に笑みを浮かべた。
「 大人しく渡した方がいい。死にたくないのなら
」
それを最後まで言い終わらない内に、彼は三蔵の背後に移動していた。
「 ・・・ 早い ・・・!」
息を呑む八戒の隣で悟空は、地面を蹴って焔に飛び掛かっていた。
如意棒を手枷の鎖で食い止められる。
余裕さえ感じられる焔の防御に、八戒は背筋が冷たくなるのを感じた。
――――― これは、強いとかいうレベルではない。
次元が違う。
だが、迷っている時間はなかった。
攻撃を仕掛ける為に八戒は手の平に気を集める事に集中した。
その時だった。
どこからか飛んできた剣が、焔の右腕に突き刺さった。
「 !? 」
傷口を押さえて後方に飛び退る焔に、更に三蔵の銃弾が飛ぶ。
「 逃げて!貴方達に倒せる相手じゃありません!
」
突然現われたマントを被った男が三蔵を制する。
「 ・・・ お前 ・・・ !」
金蝉は呆然とその男を見た。昨日会ったあの男に違いない。
男は金蝉にちらりと視線を向けたが、直ぐに八戒に向き直った。
「 どこでもいい。早くここから離れて!僕も後から追います
」
「 ・・・ でも、大丈夫ですか?」
「 ええ、心配いりません。一応焔とは同じ所にいる者ですから
」
彼の理解不能な言葉に八戒は一瞬考えたが、踵を返すとジ−プに乗り込んだ。
最後に三蔵が隣に乗り込んだのを確認すると、八戒は思い切りアクセルを踏んだ。
「 掴まっていて下さい!」
随分乱暴な運転だったと自分でも思う。
ぐったりと、それぞれ木の根本に蹲る四人を見ながら、八戒は苦笑した。
無事に逃げ切れた事は確からしい。
「 あの人、大丈夫だったでしょうか・・・ ?」
結局砂漠を抜けるだけで精一杯で、町を探す余裕などなかった。
野宿の準備でもしようかとジ−プに近寄った時、不意に彼が何所からか現われた。
「 少しの間位は動けないようにしてきましたから、大丈夫でしょう
」
「 ・・・ よくここが、分りましたね・・・
」
八戒は驚いて目の前の男を見つめた。
「 まあ、向かった方向は知っていたし、気配を辿るくらいは・・・、ね
」
にっこりと微笑みを浮かべる彼に、八戒は何か得体の知れないものを感じ取っていた。
肩にかけていたマントは先程の争いの為かぼろぼろに敗れ、中から覗く衣服は黒い、おそらく軍服。
顔にこびりついた血の跡を無造作に拭う仕種が、戦場に居る事が日常のように見える。
だが、そんな雰囲気とはまるで縁のないような優しげな容貌。
肩まで伸びた癖のない真っ直ぐな茶色の髪。同色の瞳。
彼は再び八戒に微笑みかけると、ごそごそとポケットから眼鏡を取り出した。
「 ああ、良かった。割れなくて 」
眼鏡をかけ、皆さん大丈夫ですか?と八戒に訊ねる。
「 あ、はい。お蔭様で全員無事です 」
八戒は少し間を置いて、再び口を開いた。
「 金蝉の、知り合いの方ですよね? 」
「 ええ。連れです 」
「 先程の・・・、経文の話しは本当ですか?
」
「 ・・・・・ 」
八戒の問いに彼は小さく舌打ちした。
考え込むように顎に手をあて、黙り込んだ彼はしばらくして顔を上げると、
「 仕方ありません。全てお話ししましょう 」
そう言うと、八戒を促して皆のいる方に足を向けた。
焚き火を囲んで簡単な夕食を済ませた後、彼は重い口を開いた。
「 僕の名前は天蓬といいます。金蝉のボディ−ガ−ドってとこでしょうか
」
よろしくお願いします、と彼 ――― 天蓬が差し出した手に反応した悟空と八戒が、彼と握手を交わすのを三蔵は苛々と睨み付けた。
「 呑気な事やってんじゃねぇよ。さっさと要件を言え
」
三蔵の言葉に天蓬はにっこりと微笑みを向けた。何故か背筋が寒くなるほどの微笑を。
「 すみませんねぇ。では聞きますが、天地開元経文を全て集めるとどうなるかご存知ですか?
」
「 興味ねぇな 」
「 ・・・ そうでしょうね。あなた方は師の形見を探してるに過ぎないのでしたっけ
」
「 在り来りですが、どんな願いも叶う、とか?」
恐る恐る八戒が口を挟むと、天蓬は頷いた。
「 正確にはこの世界を全て作り変える事が出来ます。要するに神になれる、って事でしょうか
」
「 神・・・ 」
「 はあ。読めてきたぞ。さっきのヤツはそれを集めて神になろ−って考えてるんだろ?
・・・ で?あんたらは?おんなじ目的なワケ?
」
悟浄に話しを振られて、金蝉は驚いて天蓬を見つめた。
そんな金蝉に天蓬は小さく笑いかけると、首を横に振った。
「 いいえ。僕達はそんな物なくても、神ですから
」
「 は? 」
「 え? 」
八戒と悟浄が同時に声を上げた。
悟空は話しの内容を今一つ理解出来ていないようで、首を傾げている。
三蔵は相変わらず鋭い視線を天蓬に向けていた。
当の金蝉はというと、しばしの間を置いて、
「 ・・・ 誰が、だって・・・ ? 」
と呟いていた。
next
とりあえずここまで〜〜。
これからオフと同時進行で逝きます〜。
やはり更新はカメですが、とりあえず連載は終わらせたいので頑張ります!